黄金樹の瞳 ―転生を繰り返すものラーベラム―
前書き
この物語は、『黄金樹の瞳』の番外編です。
本編との関連性は薄いですが、本編を読んでいた方が、理解しやすいと思います。
黄金樹の瞳 ―転生を繰り返すものラーベラム―
しんしん
しんしん
しんしん
ただ静かに、白い雪が降り続ける白の荒野。
馬車から降りたラーベラムの前に広がる光景は、ただひたすらの銀の色の荒野だった。
かつて、彼女が恋をした人がこの場所にはいた。
もう何人目の契約者であったことだろう。
もう、数百年もの歳月が過ぎ去ってしまった。
かつては、ここにあった都市の姿までなくなってしまった。
あの街の姿も、恋を抱いた人も、今ではもう誰も知らない。
……そう、ラーべラムの記憶の中でさえ、すでに恋した人の顔が、薄ボケて思い出せなくなるほどの、長すぎる歳月が流れ去っていた。
ラーベラムの銀の瞳は、切なげに雪原の光景を見続ける。
「どうした、ラーベラム」
と、過去に浸る彼女を心配する声。
それは、今のラーベラムの契約者だ。
「いえ、何でもないです。
ただ、少し寒いと思っただけです」
―――スッ
契約者は、懐にラーベラムを抱き寄せる。
「あ、あの、どうしたのですか突然!」
「いや、今の君を見ていると、まるでどこかに行ってしまいそうに思えてね」
「……」
この人は、私の心を見透かしている。
昔の私の記憶は知らなくても、何を思っているのかはわかっているのだろう。
契約者の暖かな体に抱かれると、その温もりが衣服ごしにも伝わってきた。
―――トクン
―――トクン
―――トクン
死んだ人間にはない、暖かくて、強い心臓の鼓動が聞こえる。
それは紛れもなく、今のラーベラムと同じ時を、この契約者が共にいてくれる証。
顔を思い出すこともできなくなった、人とは違った。
「安心してください。
私は今この時を、あなたと共に生きています」
ラーベラムはそう言って、契約者に穏やかに微笑んで見せた。
流星の尾を束ねたかのような、神々しい銀髪の美女ラーベラム。
その彼女の笑う様は、しかしどこか寂しく切なげだった。