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第六章 母の条件

母は、兄の部屋をそのままにしていた。


セドリックが死んで三年になる。寝台の天蓋も、読みかけの本も、窓際に置かれた泥のついた乗馬靴も、出征した朝のままだ。埃だけは毎日払われている。死者の部屋は、生きていた時より手入れが行き届く。


三日目の夕方、私はそこへ呼ばれた。


母は兄の書き物机へ座り、婚礼の赤い誓約紐を指に巻いていた。結ばれなかった紐は、昨日まで聖堂にあったはずだ。


「黒玻璃を着けたそうですね」


「検分です」


「顔を隠す道具へ、ずいぶん関心があるのね」


「国が誰の顔を入れたか、決めるためです」


母は赤い紐を机へ置いた。兄が地図を広げていた場所である。


「決める必要はありません。バルドです」


「最初に着けたのはマラでした」


「死者と娘を結婚させる趣味はありません」


「最初から結婚の話しかしていないのは、母上です」


「国もです」


母は窓を見た。外の広場では、婚礼のために立てた旗をまだ外せずにいる。祝賀の赤と金の下へ、七人を支持する者、詐称者として吊せと叫ぶ者、単に騒ぎを見たい者が集まっていた。


「北軍はバルドの言葉で動きます。竜害地の寄付は、黒玻璃の名で集まる。戦死者年金も、英雄勝利祭の税から出ている。昨日まで一人だった者を急に百人へ増やせば、爵位も金も責任も割れる」


「だから六人を殺す?」


「五人は生かすと言いました」


「一人を別の罪で殺すなら、数が減っただけです」


「数は大切です」


母の声には、怒りがなかった。配給量を決める時と同じだった。


「一人の命で五人を生かし、軍を割らず、王家の婚姻も成立する。あなたはバルドを夫に迎える。彼は英雄であり続け、残る五人は従兵として恩赦する」


「ラウルは」


「公開審問では書簡と異議申立てを扱う。その後、北門は軍事審へ送ります」


「第三条ではなく、軍法で?」


「第三条は婚礼での異議、軍法は落門と公報と印です。混ぜません」


母は罪名を選んでいるのではなかった。ラウルのしたことを一つずつ、逃げ道のない机へ移していた。


責める資格は私にもない。第三条を書いた時、各地の詐欺師だけを思い浮かべたことにした。面頬を本当に着けた兵が現れる場合を、考えなかったのではない。欄外へ追い出した。


母は私の沈黙を承諾とは受け取らなかった。そこだけは、私より慎重だった。


「あなたが求めた条件です」


「私が?」


「六人を殺すなと言った。五人を生かします。手紙を書いた男が別にいたと言った。その男だけを別に扱います。バルドを愛していないと言うなら、愛は王族の婚姻に必要ありません」


「私の言葉を、都合よく切り分けましたね」


「あなたが得意なことです」


兄の部屋で言われると、反論しにくかった。


戦時中、私は避難令を何度も書いた。『退去を望む者は南門へ』では人が動かなかった。『北区は三日後に閉鎖する。残る者への配給はない』と変えると、列ができた。選んだのは民だと、私は報告した。


母は私に、その書き方を教えた人である。


「バルドは、この条件を知っていますか」


「明日、伝えます。受けるでしょう」


「なぜ分かるのです」


「五人を救うためなら、あなたへ求婚した男です」


「私は受けません」


「今は」


母は初めて赤い紐から手を離した。


「十日目には受けます。あなたは、五人の首が落ちるところを見てまで、自分の感情を守れる子ではない」


「私をよくご存じで」


「産みましたから」


母の言う愛情は、いつも事実として提示される。反論には証拠が要る。


私は兄の机へ近づいた。引き出しの取っ手に、小さな傷がある。幼い頃、兄が鍵を失くし、短剣でこじ開けようとした跡だ。結局、鍵は自分の首から下がっていた。父が笑い、母が叱り、私は兄を庇った。


あの時の誰も、兄の部屋が三年後まで朝のまま保存されるとは思わなかった。


兄は、死後の肖像ほど立派な人ではなかった。私が十七の時に作った冬季配給案を、戦時評議で自分の案として読み上げたことがある。兄は私の名を隠そうとしたのではない。原稿を受け取った時点で、妹の考えも自分のものになったと思っただけだった。


評議の後、私が怒ると、兄は台所から砂糖漬けの杏を盗んできた。


『次は最初にクラウディアが考えたと言う。だから、もう直してくれ』


謝罪として不足している点を五つ挙げた。兄は三つ目で聞くのをやめ、残りの杏を私の口へ押し込んだ。翌月の評議では本当に私の名を出したが、『妹が夜中にうるさく直した案だ』と余計な説明も足した。


腹が立った。それでも兄が前線へ出る朝、私は彼の荷へ干し杏を入れた。返事は来なかった。兄の部屋の書棚には、空になった包みだけが今も残っている。


「北門で、兄上はどう亡くなったのです」


「公報を読んだでしょう」


「黒竜の進路を逸らすため、四十一騎と門外へ残った。黒玻璃の騎士が救援に向かったが間に合わなかった」


「そのとおりです」


「ラウルは、何をしたのです」


母は立ち上がり、窓際の外套へ触れた。兄が最後に着ていたとされる灰色の外套である。裾は焼け、肩には黒い染みが残っている。


「彼は、間に合わなかったのではありません」


母の手が外套の襟を整えた。


「間に合わせなかった」


「どういう意味です」


「本人へ聞きなさい」


「母上は知っているのでしょう」


「知っています。だから、あなたにも彼の口から聞かせるのです」


母は外套を私へ渡さなかった。私も手を伸ばさなかった。


「北峡門を閉じる鐘を鳴らしたのは、ラウル・セインです」


窓の外で、夕刻の鐘が鳴った。


兄の乗馬靴は泥を落とさないまま、扉の横に揃っていた。


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