第0話
薄い雲に陽の光が乱反射し、空全体が輝いている。
一歩一歩、城壁へと向かい歩む彼女の姿は、絢爛な歌劇の舞台に挑む歌姫のよう。
風に流れる輝く黄金色の髪、艶やかな肌と唇。
整った美貌と大きく肩を露出したドレスに、すれ違う兵士たちの口からは感嘆の声が漏れた。
(見られてる……恥ずかしいッ――)
集まる視線は、普段の彼女があまり受ける類のものではない。
だが、染まりそうになる頬も、俯きそうになってしまう気持ちも堪え、努めて平静を装う。
(大丈夫、やれることをするッ。できることをやるのッ!)
かつての皇配候補であり、追放された歌姫――ソアラ・スフォルザンドには、今、ここで為すべき理由があった。
怯んではいられない。挫けてはならない。
自分を叱咤し、歩を進め、遂には城外を見下ろす城壁の上へと立つ。
普段は芳しい新緑の風も鈍色に染まり、瑞々しい生命に溢れている草原も、血なまぐさい黒鉄の甲冑が埋め尽くしている。
それはまるで、獲物を前に、唸り声をあげている獣のような軍隊の威容。
普段は戦というものに無縁な彼女の身体を気圧すのに、十分すぎる迫力を放っている。
だが、ソアラは踏み止まった。
(負けないッ)
こみ上げた悲鳴を飲み込み、砕けそうになる腰に力を込め、下がりそうになる足を踏ん張り耐える。
(あの日の私とは違う……)
自分にできること。
自分にしかできないこと。
(もう、逃げないッ!)
今日という日を迎えるまで考え抜いた、自分だけの道。
何も失わないため。
何も手放さないため。
ソアラは、戦場で最も高い城壁のうえに無防備に姿を晒し、瞳を閉じて両腕を開く。
場違いな手段。
間違った方法。
それでも、彼女は口を開いた。
<La~La~LaLaLa~>
歌声が響く。
本来神前奉唱のために使う神聖術の力で、拡張、増幅された彼女の歌は常軌を逸した声量で、敵味方問わず戦場の遍くものの上に降り注ぐ。
(さぁ聴いてッ! これが私の、戦い方ッ!!)




