書き換える世界におはよう
幼なじみの真冬は、いつも笑っている。でも俺だけが見える——彼女の頭上に浮かぶ、ある「警告」が。
俺の名前は一路くん。17歳。高校2年生。
俺には奇妙な能力がある。他人の「プロットステータス」が見えるのだ。ゲームみたいなレベルやステータスじゃない。この世界という脚本の中での役割だ。
誰が主人公か。誰が敵役か。誰が五ページ後に死ぬモブか。誰が次の巻で読者に忘れられる脇役か。
子供の頃から見えていた。そして信じてほしい——人の人生がただの「ページの埋め草」に過ぎないと知ることほど悲しいことはない。
でももっと悲しいのは? 俺が愛する少女が、その一人だということだ。
午前6時30分、アラームが鳴る。
目を開け、数秒間天井を見つめる——まだ生きていることを確認する朝の儀式だ。それから見上げる。
いつものように、透けた文字が俺自身の頭上に浮かんでいる。
【名前:一路くん】
【役割:脇役】
【説明:普通の生活を送る、プロットにあまり重要ではない存在。背景を埋めるためにだけいる。】
小さく鼻で笑う。七歳で初めて見えて以来、俺のステータスは一度も変わっていない。俺は人生というドラマの控え選手だ。登場しなくなったら読者に忘れられる補欠キャラクター。
台所に降りる。母が料理をしている。母の頭上には 【脇役:脚本に名前すらない。】 父はもう出勤した。ステータスはだいたい同じだ。
家を出て、毎日同じ道を歩く。庭を掃いている隣人: 【モブ:三巻で引っ越す、その後二度と登場しない。】 ボール遊びをする子供: 【背景要素】 横切る黒猫さえも: 【背景要素】
これは注釈だらけの世界だ。そして俺はその中で生きている。
校門に着くまで。
「一路〜!」
その声はいつも同じだ。いつも明るい。振り向く。白雪真冬がそこに立っている。二つの弁当箱を手に振っている。俺の家から三軒隣に住む少女、幼い頃から知っている幼なじみだ。
長い茶色の髪が風に揺れている。新しいおもちゃを見つけた子猫みたいに目を輝かせている。その笑顔はいつも俺の胸を温かくする。
そしていつものように、俺の目は彼女の頭上を読む。
【名前:白雪真冬】
【役割:タイプAモブキャラ - 『幼なじみ』】
【説明:主人公の近くに住む明るい少女。物語の序盤で『温もりの源』の役割を果たす。】
そしてその下に、いつも俺の心臓を止める注釈がある。
【推定死亡時間:変動】
【注記:死亡時期は不定。明日か、来週か、あと十分後か。プロットの都合次第。死亡は主人公のトラウマの引き金として機能する。】
俺はいつもそれを読む。毎日。彼女を見るたびに。
そして毎回思う。今日は大丈夫。明日は大丈夫。たぶん来月も大丈夫。
誰もが自分を騙すのが上手いんだ。
「またぼーっとしてる。」真冬が近づき、手を俺の顔の前で振る。「どうしたの? 寝不足?」
「あ…いや。ちょっと考え事。」
「何考えてた?」
お前がいつ死ぬか考えてた。 もちろん言えない。
「今日のおかずは何かと思って。」適当に答える。
真冬は小さく笑う。彼女の笑い声はいつも軽やかで、聞いていて心地いい。「豆腐と卵焼きだよ! ソーセージも入れた! 一路の分も作ったの。作りすぎちゃった。」
「今週三回目だな。」
「文句ある?」
「ない。」
「はい、決定!」
一緒に校門をくぐる。周りには他のステータスが溢れている。噂話をする女子生徒たち: 【主人公の情報源】 職員室にいる担任: 【モブキャラ】
真冬は昨日見たドラマの話をする。隣の猫が子猫を産んだ話。数学の宿題が難しい話。俺は半分だけ聞いている。頭の片隅でずっと数えている。
あのステータスが出てからもう三年になる。それなのにまだ生きている。
もしかしたら今回は違うかも。彼女は死なないかも。もしかしたら——
「一路!」
「何だよ?!」
「聞いてる?! 放課後コンビニ行かない? 新しく出たアイス。抹茶ストロベリー、美味しいんだって。」
「……いいよ。」
「やった! 約束だからね! 放課後一緒に行こうね!」
彼女は大きく笑った。俺も小さく笑った。
もしかしたら今回は違う。
その日は普通に過ぎた。
教室では——俺は後ろの隅、真冬は窓側の前の方。彼女がノートを取るのを眺める。時々窓の外を見て、またノートを取る。休み時間には俺の机に来てお菓子をくれる。次の授業が始まる。いつも通り。
放課後になった。いつものように一緒に歩く。誰もいなくなり始める廊下を通り、校門を通り、人で賑わい始める道を通る。
真冬の家の方が先だ。俺の家より三軒手前。でも今日は違う。
「コンビニ寄ってく。飲み物買う。」俺が言う。
「外で待ってる。」真冬が答える。
「中に入ればいいのに。」
「えー、面倒。疲れた。前のベンチに座ってる。」彼女は微笑む。「早くしてね、長くないでよ!」
「わかった。」
俺はコンビニに入る。真冬は店の前の長いベンチに座る。ガラス扉のすぐ隣だ。中から彼女の背中が見える。長い茶色の髪。時々うつむく——スマホをいじっているのかもしれない。
棚の間を歩く。いつも買っているソーダ味の飲み物を探す。ない。後ろの棚かもしれない。振り返る。
その時——
バキッ!
外からの音。激しい衝突音。ガラスの割れる音。
俺は固まった。
手に持っていたペットボトルが落ちる。床で割れる。コンビニを飛び出す。
今は粉々になったガラスの前——数秒前まで真冬が座っていたベンチ——トラックが衝突していた。半分が歩道に乗り上げて止まっている。
そしてその下に。
あの制服。あの長い髪。散らばる教科書。今朝の弁当箱、もう壊れている。中身がガラスの破片の中に散らばっている。
真冬。
彼女の体がそこに横たわっている。赤い水たまりが広がり始めている。目は閉じられている。
膝の力が抜ける。彼女のそばに崩れ落ちる。彼女の手は——まだ温かい。でも冷たくなり始めている。
「真冬……」
答えはない。
彼女の頭上に、あのステータスがまだ浮かんでいる。
【状態:死亡】
【注記:彼女の死亡は主人公のトラウマの引き金に成功した。役割終了。】
役割終了?
たったそれだけ? 彼女の十七年の人生が。彼女の笑い声が。弁当が。笑顔が。ドラマや猫や抹茶ストロベリーアイスについての彼女の取り留めのない話が。外で待つことを選んだ彼女の判断が。その判断が、今も俺を生かしている。その間に彼女は——
なんで俺は飲み物なんか買いに寄ったんだ? なんで中に入れって言わなかったんだ? なんで——
涙が落ちる。冷たくなっていく彼女の手を握る。
その時、世界が変わった。
空がひび割れる。本当のひび割れじゃない。ガラスが一点から割れ始めるように。奇妙な光の線が空を這う。周りの人々が凍りつく。悲鳴が途切れる。時間が止まる。
巨大なテキストが目の前に現れる。
【バッドエンド達成。】
【タイプAモブキャラが死亡しました。】
【世界をリセットします… チェックポイントから再開…】
考える間もなく、世界が俺を引き込む。体が壊され、再構築される。永遠に感じられる一瞬のうちに。時間が苦痛なほどの速さで巻き戻る。
そして——
ビービービー!
アラーム。午前6時30分。
跳ね起きる。冷や汗が全身を濡らす。心臓が激しく打っている。
夢か?
両手を見る。きれいだ。血はない。
見上げる。自分の頭上ステータスが変わっている。
【名前:一路くん】
【役割:脇役 → 主人公】
【説明:プロットの存在に気づいたキャラクター。リセットの記憶を保持できる。】
夢じゃない。現実だ。そして世界は——世界はさっきリセットされたんだ。
部屋の外から足音。軽い。速い。聞き慣れた。部屋のドアがノックされる。
「一路〜! 起きて、遅刻するよ!」
その声。
固まる。
「もう弁当用意したよ! 早く! 何食べる?」
真冬。彼女は生きている。
立ち上がり、机にぶつかりそうになる。部屋のドアを開ける。
彼女がそこに立っている。俺の部屋の入り口に。無事だ。生きている。同じ制服。同じ髪。同じ笑顔。
「わあ、もう起きてたんだ。まだ寝てるかと思ったのに——」
抱きしめる。
「え?! 一路?! どうしたの——」
彼女は温かい。本当に温かい。
「ど、どうしたの? 泣いてる?」
気づかないうちに涙が落ちていた。
「もう…もう、大丈夫。」彼女の声は戸惑っているけど、その手は俺の背中をそっと叩く。「ここにいるよ。」
違う。この世界は残酷だ。でもお前は今生きている。そして俺はお前を生かし続ける。
抱きしめるのを解く。涙を手の甲で拭う。
「悪い夢見たの?」彼女が慎重に尋ねる。
俺はただ小さく頷く。
「じゃあ、シャワー浴びてきなよ。すっきりするから。」彼女は微笑み、そっと俺の頬をつまむ。「台所で待ってるね。お母さんがもう朝ごはん作ってくれてる。」
彼女は背を向ける。部屋の入り口から離れ、台所へ向かう。そして俺は再び彼女のステータスを見る。
【状態:生存】
【推定死亡時間:変動】
【注記:いつでも死ぬ可能性がある——明日、来週、あと十分後。】
でも今回は、俺の意識の下に新しいテキストが現れる。
【隠しミッション検出】
【目的:白雪真冬を卒業の日まで生かし続けよ。】
【失敗=世界リセット。】
【成功=??????】
拳を握る。真冬が廊下の端で止まり、振り返る。
「一路? 早くシャワー浴びてきなよ! 学校遅れる!」
「うん。」
彼女はもう一度微笑み、台所に消える。俺は部屋の入り口に立ち、天井を見上げる。あの「作者」が隠れていると確信している場所をまっすぐに見つめる。
俺をからかってるつもりか? 黙って何度も彼女が死ぬのを見ていると思うか?
「おはよう、世界。」
声は小さく、でも自分にははっきり聞こえる。
「今回は——俺がこの物語の結末を書き換える。」
甘かった。守るなんて、そんな簡単なことじゃなかった。
次回、第二話「迫り来る死神」。
イットは地獄を見る。
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次回もお楽しみに!




