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成り上がり

これは勝ち続けた英雄ではない。

負けても剣を置かなかった、帝国騎士の日記である。


# 第一部 血で刻まれる名(帝国暦742〜745年)


## 第一章 二等兵ゼルド(帝国暦742年春)


帝国暦742年春。エルディア帝国北方辺境。


ゼルド・フォン・グリオン(18歳)/エルディア帝国騎士団 北方辺境騎士団第三連隊第一大隊第三中隊所属・二等兵。


彼の初陣は、王国が裏で支援する反乱勢力の掃討作戦だった。敵は雑兵ではない。王国正規軍の訓練を受けた兵であり、階級制度も帝国と同一で、前線指揮官は王国軍一曹グレゴール・ハインツ(29歳)であった。


戦端は夜明け前に開かれた。霧の中、敵の先制砲撃で中隊長が即死。命令系統は一瞬で崩壊した。


「指揮が来ない……どうする?」


周囲が混乱する中、ゼルドは倒れた同輩の名を呼び、必死に引きずり下がった。


敵の突撃。


剣と剣がぶつかり合い、悲鳴が霧に吸われていく。


「退くな! 固まれ!」


叫んだのは上等兵だったが、命令は届かない。ゼルドは恐怖に膝が震えながらも、背後から迫る敵兵を斬り伏せた。結果として彼は三名を救ったが、戦果はそれだけだった。


戦闘は引き分けに近い形で終了。敵は撤退、帝国軍も追撃不能。


戦後報告書にはこう記された。


――勇敢ではあるが、戦果なし。評価保留。


彼は昇級されなかった。


理由は明確だった。


**「個人勇敢は評価するが、部隊への貢献度は限定的」**


ゼルドは初めて、戦場では生き残るだけでは足りないと知る。


---


## 第二章 一等兵への昇級(帝国暦743年夏)


帝国暦743年夏。


ゼルド(19歳)は同部隊に留まっていた。昇進できない焦りと、戦場への恐怖が同時に胸を締めつける。


この年、王国軍正規部隊との会戦が発生。敵斥候部隊は王国軍上等兵アルノ・ディーク(22歳)が率いていた。


戦闘は峡谷で起きた。敵は高所を取り、帝国軍は挟撃されかける。


「このままじゃ囲まれる!」


ゼルドは命令を待たず、左翼への後退を提案。上官が一瞬迷い、承認した。


結果、部隊は包囲を免れ、負傷者を回収しつつ撤退に成功する。


勝利ではなかった。しかし潰走は防がれた。


戦後、軍曹ハインツ・クロウ(39歳)は言った。


「お前は前を見ていた。貴族の坊ちゃんにしちゃ上出来だ」


昇級理由は次の通りである。


**・状況判断能力**

**・命令伝達の補助**

**・負傷者救出行動**


こうして彼は一等兵に昇級した。


---


## 第三章 上等兵、そして停滞(帝国暦744年)


帝国暦744年。


反乱領制圧戦。ゼルド(20歳)は上等兵として突撃班に配属される。


戦闘は熾烈だった。敵は共和国から流れた傭兵部隊で、三曹レオン・ヴァイス(27歳)が巧みに防御陣形を敷いていた。


ゼルドは突破を急ぎ、突撃を進言する。


結果、敵陣は崩れたが、被害は大きかった。


親友マクス・エーベル(20歳/一等兵)が戦死。


「生きろ……ゼルド……」


勝利報告は出されたが、軍内部の評価は厳しい。


**・被害過大**

**・判断が早すぎる**


上等兵昇級は認められたが、以降半年間、昇進は凍結された。


ゼルドは初めて知る。


勝っても、間違えば責任は残る。


---


## 第四章 三曹昇任(帝国暦746年)


帝国暦746年。


前任三曹の戦死により、ゼルド(22歳)は三曹へ任命される。


**昇任理由:欠員補充。他に適任者なし。**


夜襲戦で共和国軍三曹レオン・ヴァイスと再会。


「お前が指揮官か。若いな」


「……前に出る!」


近接戦の末、ゼルドは彼を討ち取る。


部下は全員生還。


初めて、部隊を守り切った戦だった。


---


## 第五章 二曹・一曹(帝国暦748年)

連続する敗北戦。

だがゼルド(24歳)は包囲を破り、撤退路を確保し続けた。

「下がれ! 生きて戻れ!」

勝てなかった。

だが部隊は残った。

**昇級理由:敗戦処理能力と統率力。**

二曹、そして一曹へ。


## 第六章 軍曹、勝てない戦の指揮官(帝国暦751年)

帝国暦751年。

大規模会戦で中隊長戦死。

ゼルド(27歳)が臨時指揮。

共和国軍大尉マルセル・ロウ(41歳)率いる重歩兵隊に押し潰される。

「退却だ! 隊列を崩すな!」

勝利は得られなかった。

だが潰走は防がれた。

**昇級理由:統率力と冷静な撤退判断。**

軍曹昇進。


# 第四部 士官という責任(帝国暦752〜760年)


## 第七章 少尉任官、小隊長ゼルド(帝国暦752年)

帝国暦752年。ゼルド(28歳)は戦場任官という形で少尉に叙任され、小隊長となる。

昇任理由は単純ではない。

**・下士官でこれ以上使い潰せない**

**・小隊規模なら責任を負わせられる**

つまり試験的昇進だった。

王国軍中尉アンドレ・シモン(31歳)率いる部隊との会戦。ゼルドは正面攻撃を命じなかった。

「無理に勝つな。生きて押し返せ」

小隊は半数を失うが、戦線は維持される。

勝利なし。だが昇進取り消しもなし。


## 第八章 中尉・中隊長、初めての全滅(帝国暦755年)

ゼルド(31歳)は中尉として中隊長に昇進。

共和国軍少佐ポール・ラグランジュ(45歳)との会戦で判断を誤り、一個小隊を失う。

「……俺の命令だ」

勝利はしたが、犠牲は大きかった。


**昇進理由:戦勝評価**

**懲戒:口頭注意、記録残存**


英雄とは呼ばれなかった。


---


## 第九章 大尉、大隊長(帝国暦758年)


大尉昇進時、ゼルド(34歳)は大隊長となる。


連邦軍大尉フリードリヒ・ヴォルフ(36歳)との平原会戦。


敵の包囲を読み切り、撤退と反撃を同時に実行。


「ここで踏みとどまれ。死ぬな!」


勝利。


**昇進理由:戦術的柔軟性と部隊温存**


---


# 第五部 将校の戦争(帝国暦761〜770年)


## 第十章 少佐・連隊長代理(帝国暦761年)


ゼルド(37歳)は少佐として連隊長代理に就任。


理由は明確だった。


**前任者戦死。後任不在。**


王国軍大佐ヴィクトール・レインハルト(52歳)との消耗戦。


勝利なし。だが敵を釘付けにする。


---


## 第十一章 中佐・大佐(帝国暦765年)


中佐(41歳)、大佐(44歳)。


連続昇進だが評価は冷淡。


「戦線は維持した。それだけだ」


**昇進理由:代替不可。政治的中立。**


---


# 第六部 英雄の孤独(帝国暦771〜780年)


## 第十二章 少将・副師団長(帝国暦771年)


ゼルド(47歳)。少将。


理由は一つ。


**生き残っているから。**


連邦軍中将ハインリヒ・ケラー(58歳)との会戦。


敗北。


だが師団は壊れなかった。


---


## 第十三章 中将・師団長(帝国暦775年)


師団長就任。


勝てない戦を選ばされる立場になる。


「撤退を許可する」


それが最善だった。


---


## 第十四章 大将・方面軍総司令官(帝国暦780年)


ゼルド(56歳)。


方面軍総司令官。


昇任理由は、ただ一行。


**『彼なら、戦争を終わらせられる』**


---


# エピローグ


帝国暦782年。


戦争終結。


ゼルド・フォン・グリオン、大将。


墓標の前で彼は言う。


「俺は、生き残っただけだ」


# エピローグ


帝国暦782年。


戦争終結。


ゼルド・フォン・グリオン、大将。


墓標の前で彼は言う。


「俺は、生き残っただけだ」


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