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最近つっかかってくる男爵令嬢に「魅了魔法使ってるでしょ!」と言われたんだけど

作者: にふゆ

「ロゼ、今日も素敵だね。きっと明日も綺麗なんだろうな。……ねえ。毎日会いたいから、週末はボクとデートしない?」

「うるさいわ。ちょっと黙ってくださる?」

「あ〜〜、つれないところもいいねえ。痺れちゃう」

 

ゆっくりお茶をしたくてわざわざ人のいない中庭の東屋までやってきていたのに、とんたお邪魔虫がついてきてしまった。

この亜麻色の髪をした男はお邪魔虫科チャラ男属レオ・ギルストーン。タレ目の甘い顔立ちの男で、よく女子にキャアキャア言われている。

花のような男だと思う。匂い立つような容姿もそうだが、周りにたくさんの女が群がる様子は蝶を集めるそれのようだった。

彼は政界にも名を轟かせるギルストーン公爵家の次男で、やれば誰よりもできるくせにほどほどに手を抜いて、それでも才能がありすぎるためにいつでも成績は上位である。

血の滲むような努力をして完璧な令嬢の体裁を保っている私からしたら、これほど憎たらしい男はいない。


そんな男が私の、私のためだけのお茶会に乱入している。

私がどれだけ素っ気なくしても毎日とんでもないガッツで食らいついてきて、今では勝手に席に座るようになった。私自身も慣れてきているのが少し悔しい。


……実をいうと、私も蝶々だったことがある。


彼がまだ蕾だった頃、……この学園に入る前に知り合った頃は今のように身長が伸びる前で少女のように愛らしく、そしておとなしくて。だからつい声をかけたりしてしまったのだけど、まさかこうなるとは。

自分の蒔いた種ながら、頭が痛い。


また帰りも勝手にエスコートする気かしら……。


ため息をつきながら、自身の黒髪を指で撫でたその時。校舎に続く方向から騒がしい足音が聞こえてきた。


「ここにいたのね、ローゼリア!」

「あら、エルさん。そんなに音を立ててはしたないわよ。もっとマナーのレッスンを増やしていただいたらいかが?」


大勢の男子生徒を引き連れた女子生徒に指を突きつけられた。……男爵令嬢が侯爵令嬢を呼び捨てにするだなんてよくないんじゃないかしら。

ツアー客を引き連れるガイドのような出で立ちで現れたのはアフローラ男爵家のご令嬢、エル・アフローラだ。茶色の髪をツインテールにした愛らしい顔立ちの少女で、私やレオの同級生でもある。

ツアー客の方は、学園に通う中でも高位の男子生徒たち。王太子、宰相の息子、魔法士団長の息子に騎士団長の息子。家柄に加えてインテリ眼鏡系イケメンから筋肉系イケメンまでを取りそろえた幅広い美男子たちで、そうそうたる顔ぶれだ。


最近、この男爵令嬢はこの色男たちを引き連れて学園内を闊歩している。


エルは貴族としての常識や淑女としてのマナーがてんで身についていないからお淑やかとは対極に位置する存在だからお友達になりたくないし、いつも大勢を引き連れて移動するのでとてもやかましい。

なので極力近づかないようにしていたのだけど、どうしてかあちらの方から来てしまった。


「それで?何のご用事かしら?お茶が冷める前に済ましてくれるとありがたいのだけど」

「ふん、余裕ぶってられるのも今のうちなんだから!……あんた、魅了の魔法を使ってるでしょう!?」

「えっ」


魅了の魔法とは、言葉の通り使った周りを対象に惚れさせる魔法だ。

ぎょっと目を剥いた私が真相を突き止められて焦っているように見えたのが、エルは勝ち誇った顔を浮かべている。


いけない。

いくらこの子が自力で答えにたどり着いたからといって顔に出してしまうなんて淑女失格だった。


「図星のようね!やっぱり悪役令嬢、やることが汚いわ!魔法まで使ってレオ様を手元に置こうとするだなんて!」

「……なんのことかしら?さっぱりわからないわ」


しらばっくれてはみたものの、実際に私は魅了魔法を使っている。しかし、この国の重鎮の息子に魔法を使ったことが公になると非常にまずく、ここで素直に白状するわけにはいかない。

それに、そもそもエルの言っていることもよくわからないし。


「あなた、憶測で物を言うのはよろしくなくてよ」

「今さらとぼけようたって無駄よ!レオ様は返してもらうわ。……ね、殿下?」

「ああ。学友が正気を失っているのはさすがに忍びないからな」


エルは王太子の腕を取って抱きつくと、甘えるような声を出す。それに殿下も得意そうな顔をして、背後の魔法士団長の息子を呼んだ。

彼女、魔法の才能はあまりないみたいだから、自力でのかけられた魔法の解除は無理だったんだろう。大口をたたいてる割にちょっと情けない。


「エミリオ、あの悪女の化けの皮を剥いでやれ」

「御意。この周囲の魔法をすべて解除しますので、魔法道具をお持ちの方はお下がりください」


名前を呼ばれて前に進み出たのは眼鏡をかけた神経質そうな雰囲気の男子だ。

魔法士団長の息子は遺伝か教育か、魔法の腕が学園でもずば抜けている。学園の生徒がかけた魔法を解くなんて朝飯前だろう。


「ちょっと、何をするつもり……」

「レオ。おとなしくしてなさい」

「でも、」

「平気よ。乱暴なことはされないわ」


立ち上がったレオをまた椅子に座らせて、私はお茶を飲む。余裕すぎる姿に対峙する一団は明らかに気色ばんでいた。


やがて、『ぱひゅん』と間の抜けた音がして、私の身体が軽くなった感覚がした。発動しっぱなしだった魔法が解除されて、その分の負担がなくなったのだ。

そしてその瞬間、彼『ら』の表情が愕然としたものに変わる。


「……俺は、今まで何を、」

「で、殿下……?どうしちゃったの?」

「馴れ馴れしく触るな!」

「きゃっ!?」

「……ああ、ああ。ローゼリア。すまない、正気を失っていたのは私の方だったようだ。しかし、いったいどうしてこんなことに……?」


様子のおかしい殿下やその他の殿方にエルの顔色が悪くなっていく。殿下はエルを振り払うと、即座に私の前に膝をついた。

 

「申し訳ありません。私にもさっぱりですの。エルさんのおっしゃることはどうにも何が何やらで……」

「それはそうだ!我が麗しの薔薇、ローゼリア。美しい君には魅了の魔法なんてものは必要ないのだから!おそらく、アフローラ男爵令嬢はエミリオの魔法解除の範囲を見誤って自分にこそかけていた魔法を解除されてしまったのだろうな」

「美しいだなんて……。お上手ですこと」


くすくすと笑って見せれば、殿下とその後ろの男子たちがぽっと頬を染めた。


実は私、ものすごくモテる。


自分で言うのもなんだが、ものすごい美人だ。

吟遊詩人の歌になるくらい美しく、妖精のようだの女神のようだの耳にタコができるくらい聞かされたくらい。当然、男性は、それどころか女性までも私を好きになった。

瞬きひとつで膝をつき、微笑むだけで骨抜きになる。

周囲はいつも私を放っておいてくれなくて、一人で過ごすのが好きな私は内心ストレスが溜まっていた。


そこに現れたのがエル・アフローラ。彼女は私に惚れることなく、むしろ真っ直ぐとした憎悪を向けてきた。


誰もが私に夢中になる中、


『あんた、悪役令嬢でしょ!ちゃんとシナリオ通りに動きなさいよ!』


と、よくわからないことを言って突っかかってきたり、目の前で転んで私に突き飛ばされたと冤罪をかぶせにかかってきたりした。なんでも、『攻略対象』の『好感度』を上げて、『逆ハー』というものを作りたかったらしい。……要するに大勢の男子にちやほやされたかったみたい。まあ、誰にも相手にされなかったようだけど。


その時点では煩わしさがあるだけだったけど、ふと思いついたのだ。

この男爵令嬢に魅了の魔法をかけてやればいいんじゃないかって。彼女は逆ハーを形成できるし、私は静かな生活を手に入れることができる。


幸いにもそれはうまくいったし、魅了の魔法が解かれた今も陛下たちはまさか私が彼女にそれをかけていたとは思っていないようだ。

でも、それは無理もない。彼らは家柄も容姿も申し分なく将来有望な若者で、その伴侶に収まりたい人間は履いて捨てるほどいる。だから、まさか自分に口説かれて嫌がる人間がいるだなんて考えが及ばないのだろう。

実際、私が断っても断っても熱心に口説いてる彼らに辟易して、こんなことをしただなんてちっとも思っていない。


「殿下、私、気分がすぐれなくて……。失礼させていただきます」

「それはいけない。送っていこう」

「いえ、殿下の手を煩わせるわけには参りません。……レオ、送って」

「ハイッ!?ボ、ボク!?」


急に話を振られたレオは声を裏返させて返事をする。目を見開いて、まさか自分が指名されるだなんて少しも思っていなかった顔だ。


「あなた以外に誰がいるの。殿下はお忙しいんだから、あなたが私に付き添ってくださる?」

「ハイッ!やります!」


さて、そんな風に中庭を脱出した私とレオは校舎に向かって歩いていた。わざわざ私がレオと二人っきりになったのは、彼に聞きたいことがあったからだ。


「レオ、あなた、魔法が効かない体質なの?」

「え?」

「あの子になびかなかったでしょう?魅了の魔法を纏った相手にあれだけ粉をかけられていたっていうのに、変よ」


私の魔法は完璧だった。それなのに何故かレオだけはエルに惚れる様子もなく、いつも通り私に纏わりつき続けていた。

普段使わないような魔法だったから上手くかからなかったのかとも思ったけど、殿下達の様子を見るにそれもなさそうだった。


「ああ、あの子?妙に可愛いなあとは思ったけど……」

「けど?」

「ロゼの方が好きだから、恋人になってほしいとかは思わなかったな。……あっいや、ロゼの方が可愛いよ!?そりゃあもう!」


目を見開く私を見て何を勘違いしたのか慌てて訂正を入れられる。

でも、そうではなく。

魅了の魔法というのは、心から好きな相手がいればかからないと言われている。

そのうえで、この男は私を、私の方が好きだといったのだ。それはどんな告白や口説き文句より熱烈で、そして真実だった。


「……週末、うちにいらっしゃい」

「デートしてくれるの!?」

「いいえ」


即答すれば「そんなぁ〜」レオは肩を落として大げさに落ち込んでみせる。その仕草がなんだか可愛く見えるのは気のせいだろうか。


「お父様に紹介するわ。気に入られるようせいぜい頑張ることね」

「えっ!?ほ、ホント!?」

「嘘だと思うなら来なくていいわよ」

「行く!絶対行く!」


飛び跳ねる勢いで前に回ったレオが私の両手を束ねて握る。やっぱりそれが妙に可愛くて、私はとうとう笑ってしまった。

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