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本の紹介⑦『IT』 スティーブン・キング/著

作者: ムクダム

モダン・ホラーの王様が放つ傑作小説

 これはどんな人が読んでも何かしら好きな部分を発見することができる、まさに宝箱のような作品です。ホラー、伝奇、ミステリー、アクション、恋愛、冒険、ジュブナイルと様々な要素がバランスよく組み合わさった傑作だと思います。人生であと1作しか物語を読めないと言われたら、迷わず本作に手を伸ばします。今のところはですが。

 キャラクタが多く、また、舞台となるデリーという町の設定を飲み込むのに少し時間がかかりますが、物語の基本となる部分を一通り把握すれば、あとはぐいぐいとこの世界に引き込まれていきます。文庫で全4冊、総ページ数およそ2000という大ボリュームですが、少しも苦にならないどころか、物語が終わりに近づくにつれ、もっとこの世界に浸っていたいという気持ちが強くなりました。それほど物語世界の骨組みがしっかりしているということでしょうね。物語の世界が自分の生きている世界と地続きのように感じられるのです。

 物語はカットバックという手法で進行していき、主人公たちの現在と過去が交互に描写され、クライマックスで一つに結実するという流れになっています。この手法は下手に使うと読者を混乱させるだけですが、本作では非常に効果的な使われ方をしていると感じました。

 主人公となる七人の男女は子供時代をデリーという町で過ごしていたのですが、それぞれ家庭や学校で疎外感を抱えており、そんな七人がある事件をきっかけに意気投合、「はみだしクラブ」というチームを結成し、町で頻発している子供の失踪事件の謎を追うというのが子供時代のパートで描かれる主な内容です。

 失踪事件の背後には「IT」という謎の存在がおり、これは人の恐怖心を利用して自らの姿を作り替えることができます。ピエロの怪物=ペニー・ワイズとして主人公たちに迫ることが多いですが、その他にも様々な姿を借りて出てきます。日本のとある怪獣も出てくるので、そういった遊び心も嬉しいですね。また、閉鎖的なデリーの風土の描写も、町で怪奇現象が起きることに説得力を持たせています。

 子供たちがデリーという町の歴史を紐解きながら「IT」の正体を探っていく様子は、良質な伝奇ミステリーのようでワクワクしますし、襲いくる恐怖を仲間達と結束して乗り越えていく様は王道のジュブナイル小説を読んでいるようで心が熱くなります。

 もう一つの軸である現代パートは、大人になった七人が再びデリーに集まろうとするストーリーが描かれます。図書館司書として町に残った一人を除いて、「はみだしクラブ」のメンバーは町を出て、小説家やコメディアン、デザイナーなどになって社会的に成功を収めますが、仕事や家庭などで問題を抱え燻っています。そんな時、町に残った仲間から、デリーで再び子供の失踪事件が発生しているという連絡を受けることになるのです。

 「IT」の正体についてはかなりスケールの大きな話になりSF的な要素も出てきますが、抽象的に捉えると、人生でやり残した後悔の象徴なのかなと感じました。実は、主人公たちは子供時代に一度「IT」を退けているのですが、完全に滅ぼすことは出来ておらず、大人になって再び「I T」と対峙することになります。時を経て力を取り戻した「IT」と対決することは、過去にやり残したことと向き合うという意味合いもあるのかなと思います。ただ年齢を重ねるだけでなく、向き合うべきことから逃げず乗り越えてこそ、本当の意味で子供時代から卒業し、大人になることができるというメッセージが込められているのかなと。ただ、上から目線で大人になれという説教くささや、子供であった時間を蔑ろにする意図はないということは物語を読むと分かります。

 本作はドラマと映画で映像化されていますが、いずれも面白い作品になっているので、いきなり文庫4冊は辛いなという場合は、映像作品から入っても良いかと思います。それぞれストーリーに微妙に違いがあるので、映像作品を観たからといって、小説を読む楽しみがなくなることはありません。個人的には1990年のドラマがよりオススメです。時代の空気感がより印象的に表現されていると感じました。 終わり     

 

 

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