不機嫌なあの子
視点が変わります。
「三猫〜!ただいま!」
俺は三猫のセットされた頭めがけて飛びついた。
小学校の頃はくせっ毛やったから毎日セットしてるんやろな。三猫ってば朝弱いのに愛いやつ……!
「おかえり……てか飛びつくな。せっかくセットしたのに髪が乱れるやろ。」
どうしたんだろうか。いつも三猫はなんだかんだ言いつつも俺が飛びつくことを押しのけたりしないのに。
とすると……
「ん?どしたん?機嫌悪いやん?」
俺は払いのけられた手をもう一度三猫の頭へと伸ばしながら三猫に言った。
「は?分からへんの?いつもあんなにすぐ気づく鈍感主人公とは程遠いお前が?今日、なんの日か知ってる?」
「今日?なんの日かって?猫の日?それとも俺と三猫が付き合って一年の記念日?」
「え?」
「忘れるわけないやん?もしかして朝俺がなんも言わへんから不安になってしもたん?」
立野は俺の方を見ながらいつものニヤニヤ顔で言った。
「はぁ??…………そーだよ!!」
「今日はやけに素直やなあ……ごめんなあ。ちょっと驚かせよ思て黙っとったのがあかんかったなあ。ちゃんと三猫のために美味しいクッキーたんまり焼いたからうちで一緒に食べよ?」
「いいのか!?って。俺を怒らせた罪は重いぞ!今からプリンも作れ!」
「はいはい。仰せのままに。」
立野がそう言って頭を撫でてきたが、今日だけは何も言わなかった。いくらラブコメのお約束といえど、記念日を忘れられていたなら悲しくてどうなっていたかわからない。今回ばかりは立野にラブコメのお約束が通じなくて良かったのかもしれないと心底と思った。