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Chapter7 「JKアサシン達の夏休み 海と伊勢海老と射撃」

 部屋はオーシャンビューだった。窓から見下ろすと、青い伊勢湾と近くの緑色の『答志島』が見えた。

「綺麗な景色だね。雄大だね。この景色を見られただけでも来てよかったよ」

ミントが言った。

「本当だね。展望ルームみたいだね」

米子が言う。

「こんな眺めのいい部屋、お金持ちになった気分ですよ」

樹里亜が笑顔で言った。

「いいっすね、こんな場所に来るの、家族がいた小学生の頃以来ですよ」

瑠美緯も目を輝かせて眼下に広がる青い海を見ていた。

米子達は権藤正造の別荘にいた。三重県鳥羽市の別荘は伊勢湾を望む断崖の上に立つ6階建の建物でプールやパターゴルフのコースがあり、レジャーホテルの様だった。米子達のいる部屋は6階の部屋だった。米子達は和室の12畳の部屋に滞在することにした。ベッドが備え付けられた1人用の個室もあるとの事だったが、あえて和室を選んだのだ。建物の中には大会議室やホールもあり、宿泊の為の部屋も20室以上存在した。米子達は新幹線で東京駅から名古屋駅まで移動し、名古屋駅からは三上が運転するワゴンで2時間かけて到着したのだ。別荘に到着した時はお昼をまわっていた。


 その日の夕方、米子達と権藤正造と三上は別荘の1階の食堂で話していた。

「別荘っていうから一軒家を想像してたけど、まるでホテルか大企業の保養所みたいだね」

ミントが言った。

「そうや。会議室やホールもあって、昔は全国の幹部や組員が集まったんや。夏なんか家族連れで集まったりしたんや。芸能人や漫才師を呼んで宴会もしたわ。政治家や財界人も良く来たんやで。ええ時代やったなあ」

権藤正造が言った。

「昔はヤクザに寛大だったんですね」

米子が言った。

「そうや。わしらは必要悪いうか、裏社会をしっかり締めとったんや。表社会とは持ちつ持たれつの関係やったんや」

「ゴンちゃん、時代の流れだよ。私は今のゴンちゃんが好きだよ。まあ三輝会の会長だけどね」

ミントが言った。

「そうやなあ。時代の流れやな。わしも随分丸くなったしな。そや、そろそろ夕食の時間や。今日は海鮮料理や。明日は松坂牛やで」

「わあ、楽しみです! 伊勢海老に松坂牛! 待ってたんです!」

樹里亜が声を上げた。

「樹里亜ちゃんが一番食いしん坊だね」


 食堂の円卓の上には新鮮な刺身と伊勢海老やサザエが運ばれて来た。

「さあ、食べよか。遠慮はいらんで」

「いただきま~す!」

4人の声が揃った。

「おいし~い! 伊勢海老初めて食べました! 権藤さんありがとうございます!」

樹里亜が伊勢海老の刺身を口いっぱいに頬張って満面の笑みを浮かべて言った。

「ははは、お替りはあるからゆっくり食べるんやで。伊勢海老は刺身と焼いたのがあるんや」

「皆さん、遠慮しないで下さい。会長が言われたように沢山用意してますので」

ボディーガードの三上も同席していた。

「じゃあ私も伊勢海老いただきます。私も伊勢海老、初めてっす」

瑠美緯が言った。

「こんな豪華な料理、申し訳ないです。さすがにタダというわけにはいかないんで少し払わせて下さい。その方が安心して食べられます」

米子が言った。

「なに言っとるんや。みんなのおかげで二和会との抗争が終わったんや。こんなん安いもんや」

「会長のおっしゃるとおりです。今では三輝会が安定して裏社会を治めてます」

「そういえば、横浜の金龍会も壊滅したな。あれもみんながやったんか?」

「ご想像にお任せします」

米子が言った。

「表には出とらんけど、凄かったらしいな。なあ三上」

「警察の話では防弾仕様の車が穴だらけになったそうです。でもこの件はマスコミにも殆ど知られていません。警察も隠しているようです。まあ、我々は警察上層部とのパイプがありますから知ってるんですが、みなさの組織は凄いですね」

三上が言った。

「詳しく言えませんがいちおう政府の系列です」

「実は我々も金龍会を狙っていたんです。あの日も大きな取引があるという事で、横浜の系列の組が金龍会の幹部の車を尾行していました。尾行していた者の話では、金龍会の幹部の車は前を走る軽トラックの荷台から銃撃されたそうです。見た事も無いような激しい銃撃で車はボロボロになったと言ってました。軽トラックの荷台から撃つなんて凄い作戦ですよね」

「圧倒的な火力だから上手くいったんです。防弾車には拳銃ではダメージを与えられません。12.7mm弾と1秒間に7.62mm弾を100発発射する火力なら防弾仕様のボルボでも豆腐みたいにグチャグチャにできます」

米子が言った。

「12.7mm? 100発?」

「ブローニングM2重機関銃とM134ミニガンです」

「ほう、調べてみます。うちの組でも導入を検討するかな。軽トラックからの射撃も参考にしたい」

「ほんま凄いな。米子ちゃんを戦闘の顧問として雇いたいくらいや」

権藤が言った。

「申し訳ありませんが協力する事はできません」

「ははは、そやろうな。わしらはヤクザや。協力したら暴対法でしょぴかれるで」

「伊勢海老とブリのお刺身美味しいです。施設に戻ったら食べられのが悲しいです」

樹里亜は料理に夢中だった。焼いた伊勢海老を手に持ってかぶりついている。

「そうかそうか、ブリは三重県の名物なんや。樹里亜ちゃん、施設ってなんや?」

「ゴンちゃん、私達孤児なんだよ。私と樹里亜ちゃんは捨て子だったんだよ。米子と瑠美緯ちゃんは小さい頃に家族を亡くしてるんだよ。みんな擁護施設で育ったんだよ。今も樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんは擁護施設にいるからあんまり高級な物を食べた事がないんだよ」

ミントが説明した。

「なんや、そうやったんか! みんな苦労してるんやな。こんなにカワイイのに難儀やな。みんないい子やで」

権藤の目が潤んでいた。

「多少苦労はしたけど、今は仲間もいるし、こうやって美味しい物も食べられから幸せだよ」

ミントが言った。

「そうか、それはええことや。美味しい物だったらいつでも食べさせるわ。ホンマにみんなが愛おしいわ。命の恩人やしな」


 米子達は三上に案内された地下の射撃場に入った。みんな大きなバックを持っている。それぞれの個人使用の拳銃と弾丸とメンテナンスキットを入れている。地下の射撃場は本格的な施設だった。3つの射撃レーンがあり、レーンの長さは25m。ターゲットは縦横50cmのペーパーターゲットで手元のボタンを押せば新しいものに交換される。米子達と三上はレーンの後ろに集まり、権藤は射撃場の後ろの右端の椅子に座った。

「いい設備ですね」

米子が言った。

「だよねー、民間の組織でこんな施設を持てるなんて三輝会って凄いよね。まあ日本一の暴力団だもんね」

ミントも感心している。

「ここでは以前、ヒットマンやボディーガードが訓練していました。今では拳銃使用の罪が重くなり、武力抗争も減ったのでほとんど使われていません。自由に使って下さい」

「三上さんは撃たないんですか?」

「撃ってみましょうか。久しぶりなんで緊張しますよ」

三上がレーンに入り、スーツの内側からブローニングハイパワーを抜き出すと、スライドを引いて初弾をチェンバーに装弾した。三上は肩幅に両足を開くと真正面を向いたまま腕を伸ばした。

『パン!』

ブロニング―ハイパワーが素早く跳ね上がり、薬莢が飛んだ。9mm弾は同心円のターゲットの7点の位置に着弾した。真ん中の黒い部分が10点だ。三上は続けて2発撃ったが、8点と7点の位置に着弾した。

「うーん、だめですね。米子さん、どうですか? 会長を護衛した時、3人を3発で倒してましたね。しかも全部ヘッドショットだった。米子さんの腕を見せて下さい」

「わかりました、撃ちます」

米子がレーンに入って構えた。足を肩幅に開き、右足を正面に対して45度開き、左足を靴のサイズ分前に出した。肘を少し曲げている。

『バン バン バン』

3連射だった。弾は全て黒く塗られた中心の10点位置に着弾した。

「凄いですね! 3発ともど真ん中です。銃はSIGで9mmですよね?」

三上が驚いたように言った。

「SIGのP229です。弾は357SIGです」

「ほう、357SIGですか。確かに9mmとは銃声が違うな。撃った事ないなあ。撃ちやすそうですね」

「撃ってみますか?」

米子はSIG-P229を三上に渡した。

三上が構えて慎重に狙いをつけたあと3発連射したが2発は6点の位置で1発はターゲットを外した。

「思ったより反動がありますね。その分威力もありそうだ」

「357SIG弾は9mm弾の1.5倍のパワーがあります」

「なるほど。訓練しないと当たらないですね。それにしても米子さんは凄い」

「あの、『米子さん』じゃなくて沢村って呼んでもらえますか。下の名前、嫌いなんです」

米子が言った。

「そうなんですか、失礼しました。沢村さんですね」

「三上さん、これ撃ってみますか?」

米子が黒い肩掛けカバンからS&W(スミス&ウェッソン)M500を取り出した。大型リボルバーだ。米子は悪戯っぽい笑顔になっている。

「大きいですね。マグナムですか?」

「500マグナム弾を使用します。1発で確実に相手を仕留められます」

「なるほど。試してみます。マグナム弾は357までしか撃った事ないので興味があります」

三上が緊張した面持ちでS&W M500を構える。親指でハンマーを起こしてゆっくりとトリガーを引いた。

『ドン!』

「うわっ!」

S&W M500が激しく跳ね上がり、三上が声を上げた。弾はターゲットの一番上を掠めるようにして外れた。

「どうですか?」

米子が声を掛ける。

「いや、凄い反動です。手が痛いです。こんなの当たりませんよ。米子さん、いえ、沢村さんは実戦でもこれを撃つんですか?」

「はい、何度か撃ちました。貸してもらえますか」

米子は三上からS&W M500受け取ると静かに構えた。

『ドン! ドン! ドン!』

銃声と同時にS&W M500が3回跳ね上がる。米子は肘を使って反動をコントロールした。

3発すべてがターゲットの真ん中の10点に着弾した。

「凄い! 沢村さん本当に凄いですよ。腕利きのヒットマンでも沢村さんには敵いませんよ」

「ちなみに500マグナム弾の火薬の量は9mm弾の『10倍』です。当てるのは至難の業です」

米子が言った。

「でも沢村さんは全部真ん中に当てました」

「米子の射撃センスは天性の物だよ。格闘センスも作戦能力も凄いしIQだって160とか200だもんね」

ミントが得意気に言った。

「200ですか!? 沢村さんはスーパーマン、いや、スーパーウーマンですね。見た目も凄い美人ですし完璧じゃないですか。格闘については一度お手合わせ願いたいです」

「いつでもいいですよ」

「じゃあこの後ホールで軽く相手をしてもらえませんか? 床にはマットを敷かせます」

三上はスマートフォンで電話を掛け、別荘のスタッフにホールにマットを敷くよう指示をした。

「米子先輩、米子撃ちやって下さい。久々に見たいっす」

瑠美緯が言った。

「あれは9mmじゃないと難しいんだよね。2丁必要だし」

「私、ベレッタ92を2丁持って来ました。米子撃ちを練習しようと思ったんです」

樹里亜が言った。

米子は樹里亜のベレッタを借りて米子撃ちを披露した。ターゲートは32発の弾丸を受けて穴だらけになった。

「いやー、ホンマに凄いなあ。機関銃みたいやったで。まるで戦闘ロボットや。さぞ練習したんやろうな。米子ちゃんがうちの組入ったら百人力や。まあ極道になるのは勧められへんけどな。それにしてもホンマに凄いわ」

いつの間にか権藤がレーンの後ろに来ていた。

「会長、昔の血が騒ぎませんか?」

三上が言った。

「わしはチャカは苦手やったんや。ドスや日本刀なら今でもいけるで」

「ゴンちゃん、無理しないでね。平和に暮らすのが一番だよ。刀を振り回すゴンちゃんなんか見たくないよ」

ミントが言った。

「そうや、わしもカタギになったつもりや。時代が変わったんや。それにわしも

歳をとったんや。時代のせいにばかりしてもいかんわな」

権藤が寂しそうに言った。米子達は各々1時間ほど射撃の練習をした。


 2階のホールは立食パーティーやイベントに使う用途のもので700平米の広さがあった。ホールの真ん中に、リングの大きさ程に緑色のマットが敷いてあった。米子と三上は貸し出しの柔道着に着替えていた。

「格闘場みたいだね」

ミントが言った。

「昔は組対抗の柔道大会もやったんや。まあ殆どが柔道の素人で単なるケンカやったけどな。あの頃は準構成員も含めると3万人以上も組員がいたんや。グランドを借りて東西対抗の運動会もやったんやで」

「ヤクザの運動会か。見てみたい気もするよ」

「玉入れとかパン食い競争なんかしたんや。組対抗のリレーもあったで。騎馬戦なんか怪我人続出やったで。熱い時代やったわ」



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