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Chapter13 「米子18歳」

 土曜日で学校が休みなので米子は部屋の掃除をしていた。スマートフォンが振動した。LINEメッセージだった。

『沢村さん 今瑠香の家にいるんだけど遊びに来ない? みんなで集まってるんだよ。瑠香の家はお金持ちだからご馳走がいっぱいだよ。待ってるからね』

メッセージによると野沢瑠香の住所は世田谷だった。米子は暇だったので野沢瑠香の家に行くことにした。友達の家に遊びに行くのは小学校3年生以来だった。家族がまだ生きている頃だ。


 野沢瑠香の家は大きな一軒家だった。父親が貿易会社を経営しているので裕福なのだ。米子がインターフォンを押すと玄関のドアが開いて野沢瑠香が顔を出した。

「沢村さん、来てくれたんだ。入ってよ、みんな待ってるよ!」

野沢瑠香が2階の部屋のドアを開けた。米子はと惑いながらも部屋に入った。

『パン! パン! パン! パン!』

クラッカーが鳴った。米子は体を沈め、反射的にブレザーの内側に右手を入れたが銃を携帯していない事を思い出した。大きな音や突発的な音に反応するのは体に染着いた習性だった。

「沢村さん、誕生日おめでとう~!!」

 浜崎里香、野沢瑠香、大屋美里、岸本きらりが声を揃えて言った。

「えっ?」

米子は当惑した。

「沢村さん、今日誕生日でしょ。私、クラスの全員の誕生日知ってるんだよ。太田の持ってる住所録をコピーしたんだよ。個人情報だけど、あいつの弱みを握ってるからね」

太田は米子達のクラスの担任だ。

「そうなんだ」

米子はそれしか言葉が出てこなかった。

「沢村さん、そこに座って、お誕生日席だよ」

米子は野沢瑠香に言われてフローリングの床に腰を下ろした。

ローテーブルの上にはケータリングの食べ物が並び、真ん中にはホールケーキが置かれていた。

「豪華でしょ? 瑠香のお父さんが取ってくれたんだよ」

浜崎美香が言った。

「ごめん、沢村さんが助けてくれた事、少しだけお父さんに話したんだよ。みんなにもね。詳しい事は分からないけど、沢村さんが動いてくれたのは分かってたから。お父さんも顔出したいって言ってたけど、それは阻止したよ。でも沢村さんに感謝してるよ」

「沢村さん凄いよね。瑠香のお父さんを脅してる怖い人達を追い払ったんでしょ?」

大屋美里が言った。米子は少し焦った。

「そんなんじゃないよ。仲間に相談しただけだよ。私の仲間、いろんな所に顔が効くから、なんとかしてくれたみたい」

「そうなんだ。でも沢村さん凄いよね。前も半グレをやっつけちゃったし。見てたもん。警棒でパコーンって」

「もうその話は止めるよ。それよりプレゼントだよ」

浜崎里香が話を遮るように言った。

「そうそう、そうだね」

「はいっ、私達からのプレゼントだよ」

浜崎里香がラッピングされた紙袋を米子に渡した。

「ありがとう~開けていい?」

「いいよ~」


 プレゼントは首からかける革製の『スマートフォンネックポーチ』だった。キャンディーローズのカラーでブランドのロゴが小さく刻まれていた。

「これっ、お洒落だね。高かったんじゃないの?」

「瑠香のお父さんがいっぱい援助してくれたんだよ」

岸本きらりが言った。

「沢村さんってスマホを裸で持ってるじゃん。ケースに入れた方が便利だよ」

大屋美里が言った。米子はさっそくネックポーチを首から掛けた。

「似合ってるよ。制服だとその色、映えるよね」

浜崎美香が言った。米子は嬉しかった。そして不思議な気持ちだった。家族を失ってから、誕生日を祝ってもらった事もプレゼントを貰った事も無かった。自分がどこか違う所にきてしまったような気がした。米子以外は缶のカクテルを飲み始めた。米子はウーロン茶を飲んでケータリングとケーキを食べ、みんなと他愛も無い話で盛り上がった。


 「沢村さん、今年は学校に来てるよね。去年は出席日数ギリギリだったじゃん。学校サボって受検勉強してるって噂だったよ。偏差値凄いもんね」

「別に受験勉強はしてなかったよ。バイトが忙しかったんだよね」

「へーえ、勉強してないのにあの成績なんだ」

「今年はしてるよ。大学に行こうと思ってるから」

「どこに行くつもりなの?」

「決めてないんだよね。何処がいいんだろう?」

「そりゃ『魁応』でしょ。ブランドだよ。女子アナとか狙えるよ。でも東大もカッコいいね。東大の理科Ⅲとかさ。私だったらフェラスもいいなあ。お洒落だよねえ」

「ふーん。でも理系がいいなあ」

米子は興味無さそうに言った。

「模試の偏差値76だったらどこでも行けるじゃん。どんな勉強してるの? 予備校とか行ってるの? 良かったら勉強方法教えてよ、私も受験勉強してるけど全然偏差値上がらないんだよ。これじゃ志望校に行けないよ」

大屋美里が言った。

「予備校は行ってないよ。参考書と問題集で勉強してるんだよ」

「それで偏差値76なの? エグっ! それってヤバくない? 地頭良すぎじゃん」

「自慢じゃないけどIQ160以上なんだよ」

米子は説明するのが面倒臭くなってきたので本当の事を話した。

「どっひゃー!」

「マジ!」

「スゴーイ!」

「えーー、なんかズルいよ。超美人なのに生まれつき頭もいいなんて恵まれすぎだっつーの。あーーー神様、神様はなぜ沢村さんにばかりお与えになるのですか!?」

大屋美里がふざけて十字をきった。

「でも私、孤児だよ。名前だって米子だし」

「あっ、そうだよね。全てに恵まれてる人なんていないよね。なんかごめんね」

「いいよ。誰のせいでもないし」

「IQ160ってどんな感じなの?」

野沢瑠香が訊いた。

「幼稚園に入る前には掛け算九九を憶えたよ。まる暗記じゃなくて掛け算の意味も分かってた。小学校3年生で日商簿記3級取って、中学2年で基本情報処理を取って、中学3年で英検1級取ったよ。周りに勧めれたから勉強して取ったんだよ。ゲーム感覚だったよ。一度勉強した事は忘れないんだよね。むしろ忘れるのが不思議だよ。授業で聞いてるのにテストで分からないっていうのが理解できないよ」

「えーー、普通忘れるじゃん! 1回聞いただけで憶えてるの?」

「うん、黒板の文字とかもイメージで憶えてるよ。参考書の文字とか図とかもね」

「うわっ、無理。頭の中パンクする。でもそれなら暗記科目無敵じゃん」

「暗記より数学が一番好きなんだよね。微分とか証明問題とかさ。小さいころソロバンもやってたから暗算も得意だよ」

「じゃあ、7367877+8978221は?」

浜崎里香がスマートフォンの電卓機能を使いながら問題を出した。

「うーんとね、16346098かな。桁数が同じだから簡単だよ」

「スゴーイ、合ってるよ!」

「沢村さんといると自分が惨めになるよ」

「それな! 頭は凄くいいし、美人だし、運動もできるし。じゃあ自分は何って感じだよ」

「まあでも沢村さんだって私達同じ女子高生だし、こうして私達と遊んでるんだから同じだよ」

浜崎美香が言った。

「沢村様、下々の私達と遊んでくださってありがとうごぜーますだ!」

大屋美里が言った。

「やめてよ。私、カラオケとの曲知らないし、プリクラも知らなかったし、洋服だって何買ったらいいかわかんないし、みんなの方がよっぽど凄いと思うよ」

「この前服買ったんでしょ? 私がチョイスしたやつ。今度着てきてよ。絶対似合うはずだからさ、見たいよ。今日も制服だよね」

岸本きらりが言った。

「制服だと選ばなくていいから楽なんだよね。でもこの前買った服は今度着て来るよ」

「沢村さんって不思議だよ。異世界の住人みたい。でも男子に凄い人気だよね。悪い虫がつかないように私達で守ってあげようよ」

「守らなくても沢村さんならワンパンだよ」

「そっか、そうだね。喧嘩は何処で習ったの?」

「喧嘩じゃないよ。軍隊格闘技だよ」

「ますます不思議でござる」

「でもさ、こうして私達のグループと仲良くしてもらってよかったよね」

「沢村さんのお誕生日会やったって言ったら他のグループが羨ましがるだろうね」

「月曜日に早速自慢しよう!」

「いいね~」

「たまには私達と一緒にお昼食べてよ。凄いインパクトだよ」

「いいよ。菓子パンだけど。私もいつも1人だから、たまにはいいかも」

「私のお弁当分けてあげるよ。っていうかお母さんに頼んでお弁当2つ作ってもらうよ」

「決まりだね~。来週は私達と昼ごはんだよ。きっと教室がザワつくよ~」

「みんなびっくりして早退するかもよ。他のクラスだってザワつくよ!」

「そうなの? でも楽しみだよ。みんなでお昼一緒に食べるなんて女子高生みたいだよ」

「だって女子高生じゃん、沢村さん面白~い、マジウケるんですけど」

「そうだ、写真撮ろうよ」

米子は楽しいひと時を過ごしていた。


次回は最終話です。

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