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Chapter11 「元締め排除」

 21:00、南新宿。ターゲットの男、寺西がパチンコ屋『ラッキーオナーホール』から出て来た。交換用の景品を両手一杯に持っている。樹里亜はハッピを脱ぐと寺西の後をつけた。樹里亜は制服の上に居酒屋『しこ八』の名前の入ったブルーのハッピを着てティッシュ配りをしていた。寺西を見張るためだ。ハッピとティッシュは劇団が用意したものだ。渉外部が所轄警察署から『道路使用許可』を取っていた。寺西は通り沿いに50mほど歩くと、細い通りを左に曲がった。樹里亜も追いかけるように曲がった。20m歩くと景品交換所だった。寺西は景品交換所のカウンターの引き出しに景品を入れた。交換所は透明なアクリルの板で仕切られた受付のような構造をしている。店員が引き出しを手前に引き、中の景品を手に取って数え始めた。やがてカウンターの中の小さなデジタル表示板に赤い文字で数字が表示される。『86,000』。店員は紙幣を数えて引き出しの中に置くと、引き出しを外側に押した。樹里亜は5mほど離れた場所に立ち止まってスマートフォンを操作するふりをしながら左右を確認した。幸い30m以内にはだれもいなかった。樹里亜は左手から下げた濃い緑色のレジ袋をお腹の高さまで上げると右手をレジ袋の中に入れた。

『バスッ! バスッ! バスッ!』

9mmソフトフォローポイント弾がレジ袋を貫通して寺西の背中に撃ち込まれた。背中から入った弾頭の1発目は脊髄を砕き、2発目の変形した弾頭は右腎臓、3発目は肝臓を破壊した。右手に紙幣を持った寺西は振り返ろうとしたがガクンと膝を落とすと同時に上半身が深いお辞儀をするように前に折れ、景品交換所のカウンターに顔面をぶつけると地面に崩れ落ちた。樹里亜はトドメを刺すことを忘れなかった。


 21:10、浜口は西武新宿線に乗り換えるためにJR山手線を高田馬場駅で降りて駅の公衆トイレに入った。トイレは混んでいたが奥の小便器が空いていたのでその前に立った。短時間でビールを中ジョッキで4杯も飲んだ後なので長い放尿だった。ズボンのファスナーを締め、小便器から離れる。手を洗いたかったが、2つしかない洗面台が埋まっていたのでそのまま公衆トイレを出る事にした。制服を着た男子高校生が入り口から勢いよく入って来た。浜口はその高校生をなかなかの美少年でアイドルみたいだと思った。男子高校生が正面からぶつかり、衝撃を感じた。

「うぐっ」

浜口は腹に熱いものを感じた。さらに腹の中がカアッーと熱くなった。腹を見ようと思ったが、男子高校生が体を押し付けているので見えない。熱かった腹に鋭い痛みを感じると同時に意識が朦朧としてきた。足を踏ん張ろうと思ったが意識が飛んだ。

 瑠美緯は紺色のブレザーに白いワイシャツ、えんじ色のネクタイにグレーのズボンに黒いスニーカーを身に着け、男子高校生の姿の中性的な美少年に変装していた。軽くウェイブの掛かったこげ茶の色のショートカットのサイドの髪の毛をジェルで後ろに流していた。瑠美緯はターゲットの浜口を池袋の事務所の入ったマンションの前から尾行した。浜口が地下道で西口から東口に移動し、立ち飲み屋に入ったので、店の近くで1時間も待つ事になった。スマートフォンでゲームをしたり、待ち合わせをしているふりをして時間を潰した。池袋から山の手線に乗った浜口が高田馬場で降り、駅のトイレに入ったので外で待つことにした。人通りは多かったが瑠美緯を気に掛ける者はいなかった。正確には通りすがりの女性2人と同性愛者の男1人が瑠美緯の顔をタイプだと思って見つめた。瑠美緯は浜口のトイレが思った以上に時間が掛かっているのでトイレの中で殺る事にした。瑠美緯はブレザーを脱いで右手で持ち、周りに見えないように肩掛けカバンからダガーナイフを取り出してブレザーで隠した。トイレの入り口に向かい、急ぎ足で入り口に入るとターゲットの浜口が目の前に現れ、すれ違いそうになった。瑠美緯は左手でブレザーを捲ると右手のダガーナイフを強く握り、体ごと浜口にぶつかった。手ごたえがあった。深く刺さっているはずだ。瑠美緯は訓練所で教わった通りにダガーナイフを強く3回捻った。抵抗があり、ナイフは何かに引っ掛かりながらグリグリと回った。瑠美緯は刺さったダガーナイフを抜くとブレザーを被せ、トイレの入り口からコンコースに出ると速足で早稲田口の改札に向かった。


 21:45、木村はエレベーターに乗り、2階のオキニのいる店、『【JK専科】びしょ濡れフルーツスクールガール』に入った。

白いシャツの上に黒いベストを着た店員に個室に通された。部屋の中にはソファーと小さなテーブルが置いてある。木村はソファーに座りながら店員にオキニの名前を伝えた。

「すみません、メロンちゃんは予約がいっぱい入ってまして1時間以上待つ事になります」

店員が頭を下げながら言った。

「なんだよ、メロンちゃんからメールが来たから空いてると思ったのによお」

「あの、もしよかったら新人の娘はどうですか? ここだけの話、17歳の現役女子高生なんですよ」

「何!? 本当に17歳なのか? まずいんじゃないの?」

「ちょっと訳ありでして、常連のお客様限定の特別サービスです。今回だけですよ、他で言わないで下さいよ」

店員が意味深な笑顔で応じた。

「わかった、それにするよ!」

「お客さん、運がいいですよ。この前入ったばかりのカワイイ娘で、パクチーちゃんです」

「パクチー? なんか臭そうだな。まあいい、早くしてくれ」

「失礼しまーす」

キャミソール姿のミントがタオルと大きなポシェットを持って現れた。セーラービーナスのお面を着けている。

「パクチーです、よろしくお願いします」

ミントはカーペットの床に両膝を付いて頭を下げた。

「おお、よろしく。そのお面は何なんだ?」

「プレイの途中で外して下さい。本当の顔は後のお楽しいみです。何か飲みますか?」

「ほう、面白いサービスだな。プレイ中にお面を外すとカワイイ素顔が見れるのか。しかも女子高生か。へへっ。飲み物はいいよ、時間が勿体ないからな。こっちに来い」

木村は辛抱たまらんといった風で、目が爛爛と輝き、ニヤケている。

「ちょっと待って下さい、うがい薬とローションを用意しますね」

ミントは床に膝を着いたまま後ろを向くと大きなポシェットのジッパーを開いた。ポシェットの中からサイレンサーの付いたSIG-P226を取り出すと右手に持っては木村の頭に向けた。

「おい、何だそれ? プレイの小道具か?」

「P226だよ。お客さん、半グレなのに見た事無いの?」

「お前誰だ!?」

「セーラー戦士のセーラービーナスだよ」

「お前らか!? 脅迫状を送ってきやがったのは! このアマ、舐めやがって」

浜口はソファから立ち上がってミントに掴みかかろうとした。

『バスッ バスッ バスッ バスッ』

浜口が前に出して広げた右手の中指を9mmフルメタルジャケット弾が第2関節から吹き飛はした。その銃弾は右目を直撃した。2発目は額の右に、3発目は首に、4発目は鳩尾に撃ち込まれた。木村は後ろのソファーに倒れ込んだ。

『バスッ』

ミントは最初の4発で浜口の死を確信したが、念のため、というより習慣としてトドメを額に撃ち込んだ。

「見事ですねえ、暗殺の現場は初めてみました。掃除屋には連絡しました。着替えです」

袋を持った店員が現れて言った。

「渉外部も大変だね」

「今回は人手が足りないので仕方ないです。警察と合同の大規模なミッションですからねえ。では私は行きます」

店員に扮した組織の男が言った。店は今回の作戦に協力していた。警察が協力を求めたのだ。もし断れば、店は生活安全課の手入れを受けて営業停止になる。ミントはキャミソールを脱ぐと制服に着替えて肩掛けカバンを肩から掛けると非常階段で1階に降りて通りに出た。夜の街はまだ目を覚ましたばかりで、これから沢山の男達の欲望を飲み込むのだ。ミントは足早で歩きならスマートフォンで電話を掛けた。

『はい、樹里亜です』

『ミントだよ。どう、上手くいった?』

『はい、大丈夫です』

『ご苦労さん、明日事務所でね』


『瑠美緯です』

『ミントだよ。上手くいった?』

『ばっちりです』

『そう、良かったよ。じゃあ明日事務所でね』


 ミント達は翌日も暗殺を実行した。昼の西国分寺駅のホームは人が疎らだった。『草津』は池袋のアジトに顔を出そうと思っていた。昨日、仲間の寺西、浜口、木村が殺された詳細の情報が欲しかった。何よりも家にいるのが恐ろしかった。自分たちのグループに『皆殺しにする』という脅迫状が届いているのだ。昨日の事件も関連しているかもしれないと思っていた。樹里亜はホームの一番前に立っている草津の3m後ろに立っていた。駅のアナウンスが『中央特快』が通過する事を告げていた。中央特快の音が聞こえて来た。草津は僅かに後ろに下がった、樹里亜は前進して草津の真後ろに立った。中央特快の音が大きくなってきた。樹里亜は両手を胸の高さに上げて手の平を開いた。中央特快の車輪と線路が鳴らす音がうるさいくらいになった。樹里亜は両手を勢いよく前に突きし出した。気配を感じ取ったのか草津の首が動いて後ろを確認しようとしている。樹里亜の手の平が草津の背中を勢いよく押す。一瞬の出来事だった。草津は押し出されるようにホームから線路に落ちた。中央線の運転士が電車に飛び込む草津を確認した。距離は20m。草津と運転手の目が合った。けたたましく警笛が鳴ってホームに高いブレーキ音が響き渡った。

『ドゴッ』

鈍い音がした。樹里亜は改札に向かって歩きだした。草津は通勤快速の台車の下に巻き込まれて肉片になった。肉片は30m四方に撒き散らされた。


 瑠美緯は床屋で髭剃り中だった『井上』の喉をナイフで切り裂いた。床屋に他に客はいなかった。施術中だった店主の理容師は頸動脈洞圧迫で失神させたのだ。瑠美緯は床屋のドアを静かに開けると音も無く後ろから理容師に近づき、組み付くと15秒で失神させた。潜入訓練で習った技術だった。井上は倒れたシートで仰向けになりウトウトして目を瞑っていたので喉を切られるまで気が付かなかった。ウトウトしている時に夢を見ていた。子供の頃の夢だった。家族で夜祭の縁日に出掛けた夢だった。あの頃に戻りたい。そう思った瞬間に喉に痛みを感じ、頭の中のスクリーンが徐々に暗くなった。


 ミントは歌舞伎町のトー横で『杉山』にパパ活の誘いを掛けた。杉山はトー横で少女を物色するのが楽しみの一つだった。杉山はすぐに了承した。条件は2万ホ別だった。ミントはラブホテルの部屋に入ると行為を急かす杉山をいなして電気ケトルでお湯を沸かし、アメニティの緑茶のティーパックでお茶を淹れた。杉山は舐めるようにミントを見ながら熱いお茶を2口ほど飲むと痙攣を起し、喉を掻きむしって床に倒れた。呼吸が止まるまで30秒と掛からなかった。お茶にはシアン化合物を使った毒が混入していた。ミントが毒の入ったカプセルを入れたのだ。毒の入ったカプセルは硬いが、水に触れると容易に溶けた。シアン化合物は触れるだけでも人体に深刻な影響を与える猛毒である。致死量は0.06gで僅かな時間で呼吸停止や心停止に至る猛毒である。

ミント達が暗殺した元締めのメンバーは6人に達した。樹里亜と瑠美緯は確実に暗殺の技術を向上させていった。


 ミントは悩んでいた。闇バイトのアジトを急襲する作戦指導部の立てた作戦書を読み終えたばかりだった。ミントはお気に入りのメキシコのコーヒを飲みながら作戦のカスタマイズを考えていた。作戦指導部の立てた作戦は、元締めのアジトである池袋マンションを4人で急襲する作戦だった。玄関のドアをC4で吹き飛ばしてフラッシュバン(音響閃光手榴弾)を投げ込み、突入してサブマシンガンで敵を倒すという物だった。部屋の見取り図もあった。見取り図によると部屋は3LDKだった。部屋は6階だ。見取り図は不動産屋が提供したもので基本的な間取りしか分からなかった。作戦書にはパソコンなどの情報機器も破壊するように指示されていた。幸いにもアジトの両隣の部屋は空き部屋のようだった。米子ならもっといい作戦を立てたはずだと思った。ミントは米子に電話した。

『久しぶり、ミントだよ』

『お疲れ様、この前は楽しかったね。みんな元気? 闇バイトの実行犯の暗殺、頑張ってるみたいだね。ワイドショーもその話題ばっかりだよ。それと作戦書と見取り図見たよ。杜撰な作戦だね。ベタすぎだよ』

米子が言った。

『だよねー、ドアの種類や敵の武装状況なんかもわからないよ。それにきっとマンションの廊下とかに監視カメラがあるはずだよ。こんな作戦じゃ返り討ちにあって終わりだよ。このマンション、半グレやチィニーズマフィアがいっぱい住んでるマンションらしいよ。ヤクザのオフィスもあるみたいだよ。いわゆるヤクザマンションだね。みんなは元気だよ。樹里亜ちゃんも瑠美緯ちゃんも成長してるよ』

『そうなんだ。それとこのマンション、結構古いよね。8階建てで築40年。エレベーターは1基。見取り図の間取りもあてにならないよ。室内を改装しているかもしれないよ』

『だよねー』

『エレベーターは使わない方がいいね。外からコントロールされて、最悪閉じ込められるかもしれないよ。両隣の部屋も怪しいよ。空き部屋になってるけど、その半グレが使ってるかもしれないよ。前に暗殺で新宿のヤクザマンションに忍び込んだ事があるけど、いろいろ防御されてて苦労したよ。空き部屋もターゲットの組織の待機所だったよ』

『そうか、さすが米子だね、気が付かなかったよ』

『玄関は2重ドアになってる可能性があるね。もちろんインターホンはカメラ付きだろうね』

『米子だったらどうする?』

『まず別のチームを屋上から隣の部屋に侵入させるよ。押入れかクローゼットの中の壁に指向性のC4を使って穴を空けてそこから突入するよ。押入れの壁は薄いんだよ。天井裏を伝って突入するのもいいけど、事前の調査が必要だね。敵は逃げようとして玄関のドアを開けるだろうから、そこから別のチームが突入だよ』

『なるほどねー、いいかもね』

『それか宅配便を装って爆弾を届けるのもいいかも。遠隔操作で起爆すればいいよ』

『でも脅迫状を送ってるから敵も警戒するよ』

『そうか。敵の人物の相関関係が分かる情報無いのかな。特に上部組織との関係だよ』

『本部に問いあわせてみるよ』

『じゃあ宅配便を使ったシナリオを考えて送るよ』

『あざ~す! 米子、いつ戻ってくるの?』

『うーん、決めてないよ。今は料理教室に通ったり、船舶免許の講習を受けてるよ。株の勉強とボルダリングも始めたんだよね。権藤さんから貰ったお金を株で増やしたからお金には困ってないよ』

『充実してそうだね』

『そうでも無いよ。刺激が足りないっていうか、スリルが無いっていうか、ぬるま湯の中にいるみたいだよ』

『それが普通なんだよ。頻繁に命のやり取りをするアサシンの生活が異常なんだよ』

『そうかもね。とにかくシナリオと、気が付いた点があたらメール送るよ』

『やっぱ米子は頼りになるよ。それに米子がいないと寂しいよ』


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