97・苦言を呈す
シューゴたちが地下迷宮に入っていたことは、内密にしてもらっている。
三人組にも今日の夕方に北門から帰って来たことにした。
嘘ではないので大丈夫。
マスオルについても、今回は「危険な仕事」だったので心配して駆けつけてくれたのだと補足しておく。
一緒に夕飯を食べながら、三人組に不在の間の話を聞く。
概ね問題はなかったようだ。
だが、地下迷宮の調査隊が行方不明になった話はどこからか漏れていた。
「街の人たちはあまり気にしていませんでしたけど」
ただ、迷宮のある王城はそうもいかなかったらしく、夜もずっと明かりが点り、ザワザワしていたという。
教会も神官が救助に同行しているため、気にはなっていただろう。
三人組はハツーナが所属している東の教会で育ち、今でも何かと世話になっている。
「僕たちはハツーナ先生が迷宮へ調査隊の救出に向かったことは知ってました」
ロウが優秀なのか、教会側の口が軽いのか。
シューゴは、誓約をやっておいて良かったと胸を撫で下ろす。
迷宮から出て、既に二日が経っている。
「神官さんは無事だった?」
知らない風を装いシューゴが訊ねると三人は笑みを浮かべる。
「はい!」
「怪我はなかったよ」
「ご活躍されたようです」
「それは良かった」
シューゴたちが微笑むと、三人も安心して部屋へ戻って行った。
明日も収集の仕事らしい。
その夜はリーが浴室を使い、シューゴは翌朝、庭を整えてから風呂に入る。
(たまにゆっくり浸かるのもいいな)
この家を購入するまで入浴にはあまり興味はなかったシューゴだが、最近はいつでも気軽に入れるせいか、楽しみの一つになった。
今日は一日、家の掃除の予定である。
リーは、高級宿で過ごしているつもりで、のんびり部屋で寝て過ごすと言っていた。
「では、リーの部屋以外をキレイにしよう」
三人組の部屋は勿論、家主として入る権利を行使するつもりである。
室内はほぼ終わり、昼過ぎには地下の浴室も清掃が終わった。
最後に、一番厄介な解体用の一階倉庫の汚れに取り掛かる。
解体台や道具はアヅの街の肉屋を見本に揃えた。
「きれいになあーれ」
鼻歌まじりにモップや雑巾で汚れを落としていく。
「ふむ、あの子たちもがんばってるな」
この倉庫は三人組にも使わせている。
明らかに自分の仕業ではない汚れや傷もあったので【修復】した。
薬を作る作業部屋は倉庫の奥に仕切ってある。
行政府の許可を取った時に「他人には見えない場所で」製造するように言われていたからだ。
「まだ在庫は大丈夫かな」
迷宮ではハツーナが優秀だったせいもあり、あまり使わずに済んでいる。
人数が少なかったのと、救助対象が眠っていたのも幸いした。
簡単に棚を整理し【浄化】しておく。
なるべく清潔を保ちたい場所である。
そろそろ夕食の準備に取りかかろうと、二階へ上がるため螺旋階段のある一階の玄関を横切る。
「あ、シューゴさん」
少し早い時間だが、三人組が戻って来たようだ。
「お帰りー」
「あ、あの」
少し様子がおかしい。
首を傾げていると、家の外に気配がした。
「ハツーナ先生が家主さんに会いたいって、外にいます」
(そういうことか)
シューゴはロウにハツーナと二人だけで話をしたいから、三人で外食するように頼んだ。
「分かりました」
素直に出て行く三人組と入れ違いでハツーナを玄関に入れる。
「こんにちは、どうされました?」
シューゴはあえてハツーナと玄関内で立ち話をする。
「どう、って。 あれからあなたたちの姿が見えなかったから」
心配してくれたようだ。
「私たちはただの雑用係です。 たいしたこともしていませんしー」
「そんなこと!、ないでしょ。 しかも、あの助けた女性のこととか、全てなかったことにされてるし」
ハツーナは機嫌悪そうにシューゴを睨む。
「なかった、でいいんですよ。 それにハツーナ神官がここに来るのも、あまり感心しません」
「え?」
「おそらく、あなたには尾行が付いているはずです」
迷宮内部のことは国にとっては重要な機密なので、地下迷宮に入った人間は少ない。
そんな情報を知ろうとする者はどこにでもいる。
「私はそれが嫌なので、なるべく名前は出さないようにお願いしていたんです」
「あー」
ハツーナも心当たりがあったようだ。
「そのあなたがここに来ると、我々が疑われますので」
用事があれば、三人組の誰かを使って呼び出してくれればいいと伝える。
平民が教会に行くのは普通の行為だから。
「私がここに来ては迷惑だというのね」
ハツーナは俯いて唸る。
「ええ、正直、困ります。 それにー」
シューゴは静かに諭す。
「東の組合から荷物持ちを出したことは知られていますから、あまりここに来ると、あの三人組が疑われますよ」
まだ若い三人は、迷宮で活躍したハツーナを自慢していた。
東の組合に出入りしていること、ハツーナ神官と親しいことで、彼らが迷宮に関係していると勘違いする者が現れるかもしれない。
「迷宮の功績を妬んで噂されたり、嫌がらせされたりするかもしれません」
すでに報酬の噂は広がり始めていた。
そんな大金を持っているなどと勘違いされたら危ない。
ハツーナの顔色が悪くなる。
「わたし……ただ心配で」
「分かっています。 今後は控えてくださいね」
と、追い出した。




