94・逃亡か避難か
地下一階まで戻ってきた。
後は地上に続く長い階段を上るだけである。
荷物持ち兄弟は嬉しそうに歩を進め、その後ろをハツーナがついて行く。
ハツーナの荷物は全て兄弟が引き受けていた。
リーが盲目のウーウの手を引き、ゆっくりと階段を上っており、シューゴは最後尾で皆の後ろを着いて行く。
打ち合わせは済んでいた。
地上に出たら、ハツーナはすぐにキクマ隊長を呼んでもらい、兄弟を引き渡す。
ウーウを連れたリーとシューゴは、その間に姿を消し、城から出る。
「貴族の女性がこのような場所に囚われていたことが分かると醜聞になりますから」
シューゴはハツーナと兄弟にウーウのことは口止めした。
「オレたち、シューゴさんに命を救ってもらったんだ、約束は守る!」
兄弟の誓いの言葉に、シューゴは心からの優しい笑みを浮かべた。
ハツーナも、治療を拒否するほどウーウには嫌われていると思い込み、もう関わりたくないと素直に頷く。
「では、隊長にはよろしく伝えてください」
「分かったわ」
それがハツーナの最後の大仕事である。
地上の光が見えた。
頭上から外の雑踏が聞こえてくる。
「行きましょう」
城の警備兵や騎士を相手にどこまで通用するかは分からない。
それに、ウーウと卵に『神力』の影響が出るかもしれないので、一刻も早く王城の外に出る必要がある。
シューゴは、リーとウーウの肩に触れて【隠蔽】を発動した。
「誰か出てきたぞ!」
「団長を呼べ!」
騎士たちの声がする。
「キクマ隊長を呼んでください」
ハツーナの声を背中で聞きながら、シューゴはリーたちを先導し、人混みを抜けて通用門を目指す。
無事に門を抜け、門番から見えない位置に移動して【隠蔽】を解除。
一息吐く間もなく、今度は北門へと向かう。
時間も夕方に近いようで、門が閉まる前に王都に入ろうとする人で混み合っている。
こちらではウーウだけに【隠蔽】を掛け、リーとシューゴは資格証を見せて通る。
「あー、収集屋か。 いいぞ」
すんなり通してくれた。
道を外れ、木陰で【隠蔽】を解く。
「お疲れ様でした。 異常はありませんか?」
「ああ、問題ない」
後は三人で歩いてガラの牧場へと向かう。
竜が飛び立つのに必要な広さがあり、目立たない場所がそこしか思いつかなかった。
夜通し歩いたが、迷宮内でゆっくり休んでいたせいか、疲れはない。
夜明け前には牧場に到着した。
「無断で侵入するのは心苦しいけど」
ガラ親子を竜に関わらせるわけにはいかない。
慎重に移動し、周りから見えない小高い丘の陰に下りた。
シューゴは竜の気配で牧場の家畜たちに影響が出ないよう、周囲に【結界】を張る。
「もう良いか?」
「はい」
ウーウからブワッと魔力が溢れ、青黒い鱗の竜の姿が現れた。
「じゃあ、行って来る」
リーがその背中へと飛び付いた。
目が見えないウーウを里まで誘導するためだ。
「お気を付けて。 無事に着くように祈っております」
シューゴが礼を取ると、竜の首が二、三度上下に揺れた。
ゆっくりと背中の翼が伸び、フワリと魔力で浮き上がる。
シューゴは周囲の【結界】を維持するのに必死だ。
『さらばである』
ウーウの声を聞いた気がした。
高く高く上り、その姿が見えなくなるまでシューゴはその場に立ち尽くす。
「あー!、収集屋のおにーちゃん」
「げっ」
犬を連れたガラに見つかってしまったのは余談である。
その頃、雲の上に出たリーとウーウは里に向かって方向を見定めていた。
「あっちだよ」
『うむ』
長い地下生活は風竜ウーウの感覚を狂わせていた。
「ゆっくり行こう」
『早く帰りたいだろうに、すまないな』
「平気だよ。 俺が帰るところはシューゴのとこしかないって分かってるから」
ウーウはバサッと確かめるように翼を動かし、咆哮する。
オオオーンッ
懐かしい風の匂い、解放された喜びに溢れていた。
しばらくして、リーたちの頭上に何かの気配が現れる。
リーは思わず「ギャッ」と叫んだ。
目の前に青く巨大な竜が現れたのである。
しかも、リーに敵意を向けていた。
『大丈夫じゃよ。 これはわちしの番だからの』
「は?」
二体の竜は空中に浮かんだまま、見つめ合う。
『我は青竜、風竜ウーウの番だ。 済まなかった、若いの。 我が妻子を連れて来てくれたことを感謝する』
青い竜から威圧感が消えた。
『ここから先は我が連れて行く』
青い竜が消え、ウーウの背にもう一人男性が現れた。
「いくら感謝しても足りないが、今は妻の養生を優先したい」
「ああ、そうしてやって。 俺のことは気にしないで」
「そういうわけにはいかぬ」
と、リーの目の前に青い石をくり抜いたような指輪が浮かぶ。
「お前は龍人だろう。 ならば竜の飛行魔法を詰めた魔力石をやろう」
竜人は竜の翼を持たないため、飛べない。
それはリーにとって嬉しい贈り物だった。
「わあ、ありがとう」
リーはその指輪を受け取り、指に嵌めた。
小さいながら魔力を大量に詰め込んだ魔力石の指輪は、リーの人差し指にピタッと嵌る。
「ではな」
「うん。 ウーウさん、お子さんも、元気でね」
別れの挨拶が終わった途端、リーは空中に放り出された。
「ギャッ!、おーちーるー」
『気を付けてお帰り、キョーの坊や』
「ウワァーーー」
地面に突き刺さる前に、なんとか、リーの飛行魔法は発動した。
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