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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第一章 アヅの街
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9・昇格の意味


 シンゾー老人もやって来て昇格を祝ってくれた。


「毒蛇が街中で見つかったからな。 今頃、薬屋や治療院からの注文が増えているだろうよ」


そうか。


それなら明日からの仕事は北の森が中心になるな、とシューゴは段取りを考える。


 チラリと依頼掲示板を見ると、張り出された毒蛇の捕獲は『緑』だ。


ギリギリ間に合った。


『青』のリーは受注出来ないが、いつものようにシューゴが依頼を受けて、完了した成果を半分にすれば良い。


「もしかして、僕に受注させるために『緑』に昇格させたのかな」


そんなはずはないと思いたかった。




 シューゴたちは今日はまだ休みで仕事は明日からだ。


「僕はゆっくり休むよ」


報酬を受け取ったシューゴはひとりで組合を出て行く。


また金を使い切るために買い物に行ったのだろうと、組合に居た者たちは苦笑した。


「あの浪費癖がなければ女にモテるのになあ」


シンゾー老人はため息を吐く。


 長身の優男。


この辺りでは珍しい藁色の髪に、タレ目で細いせいで瞳の色は判らないが肌の色は薄い。


収集屋の腕も良いし、十八歳という若さで『緑』昇格まで辿り着いた。


女たちが騒いでもいいような良い男なのだが、やはり金が無いのが欠点らしい。


「そういえば、シューゴくんもリーくんも女性の噂は聞きませんね」


ナナエは首を傾げる。


「あははは」


リーは笑って誤魔化しながら、そっと組合を後にした。




 組合を出たシューゴは繁華街に向かって歩く。


正確には繁華街の奥にある歓楽街に向かっていた。


今まで娼館になど縁がなかったので詳しいことは知らないが、アヅの街にはそこそこの数の娼館がある。


まだ明るいし、この時間なら客引きに捕まることはないだろう。


シューゴは歓楽街に着くと裏通りに入った。


人目がないことを確認して、【隠蔽】と呟き姿を消す。


 派手な表通りに並ぶ店の入り口と違い、裏通りに面した勝手口からは使用人たちが出入りしている。


シューゴはあの兄妹の姉の姿を探し、人にぶつからないよう慎重に歩く。


「そう簡単には見つからないか」


子供たちに娼館の名前を訊くわけにもいかなかったので、自分で探すしかない。




 シューゴは裏通りの真ん中辺りで立ち止まる。


そこに荷物を搬送するための馬車溜まりがあり、目印の石標があった。


シューゴは姿を消したまま、その石標によじ登る。


(ここからならほとんどの店の裏が見えるな)


この街に歓楽街の娼館通りは背中合わせに二つある。


その真ん中に裏通りがあるため、出入りするほぼ全ての使用人がここを通るのだ。


今日は休みであるシューゴは石標の上に座り込んで、のんびりと過ごすことにした。


(探し当てたとしても僕に何か出来るわけではないけど)


せめて元気な姿が見たい。


あの子たちに姉の様子を教えてあげたら喜んでくれるだろうか。


シューゴはパンを齧りながら、ぼんやりと裏通りを歩く人々を眺めていた。


 この街の娼館の営業は陽が落ちてからである。


それまでに使用人たちは掃除などの準備を終わらせなければならない。


彼女も出たり入ったりしているはずだ。


シューゴはどれだけ人の顔を見ただろうか。


女性に限定しているとはいえ、ここには女性の方が多い。


まだ早いが段々と人の出入りが激しくなって来た。




「あっ」


シューゴは漏れそうになった声を飲み込む。


見慣れた服装の彼女が居た。


この街の二大勢力の一つである有名な娼館の裏口。


やはり下働きのようだ。


シューゴは何故かホッとした自分に気付いて苦い顔になる。


仕事に貴賎はないと言いながら、やはり自分は娼婦を嫌悪していたのか。


それに気付いてしまったシューゴの体は固まり、動けなくなってしまった。


 すっかり陽が落ち、夜の歓楽街に怪しい光が点る。


シューゴはゆるゆると動いて石標を下り、彼女の姿を見た娼館へ自然に足が向いた。




 窓から中を見るが厚いカーテンで遮られている。


「おい、そこの若造、何してやがる」


気を抜いていたせいか【隠蔽】が解けていた。


用心棒らしき屈強な男に睨まれている。


「す、すみません。 知り合いに似た女性がいたので、つい」


「ガハハハ、そんな女ならいっぱいいるだろうよ」


若いシューゴの言葉は言い訳にしか聞こえず、男は大声で笑った。


「どうした?」


何かあったのかと、店の中から身なりの良い中年男性が出て来た。




「いや、何でもねえですよ、旦那。 ガキが覗き込んでただけで」


「ふうん」


中年男性はシューゴをジロジロと眺めた。


「私はこの娼館の支配人のコロクだ。 君は『収集屋のシューゴ』かな?」


シューゴは支配人の男性が自分に名乗ったことも、その人に自分の名前を知られていることにも驚いた。


「ふふふ。 この街の有望そうな若者は皆、覚えているよ。 将来、上客になるかも知れないからね」


支配人コロクはシューゴの傍に来て囁いた。


「良かったら見学していくかい?。 知り合いがいるかも知れないんだろう」


嫌らしい笑みを浮かべている。


それでもシューゴは頷いた。


「お邪魔でなければ、お願いします」


コロクの笑い声が一層高くなり、シューゴの背中を押して店に入れてくれた。



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