88・要救助者発見
救助隊は、十階にあるはずのない上り道を見つける。
「こんな所にー」
「キクマ隊長、考察はまた今度で。 ついて来てください」
駆け上がって行くシューゴを、キクマたちは慌てて後を追う。
調査員たちの気配は相変わらず動いていない。
気配がある、ということは生きている。
だが、シューゴには嫌な予感がした。
目標は七階。
新しい通路の中には動く骨の魔物がいた。
シューゴは魔物が迫ってくると、自分では戦わずに避け、後ろにいるキクマに任せる。
「右の穴から人型骨二体」
「おう!」
しかも、長い間、見つからなくて討伐されずにいたため量が多い。
さらに、今まで通って来た場所より魔力が濃く、魔物自体が強い。
後ろから来る敵に対しては、リーがいるので不安はない。
リーと二人だけならば【結界】で弾きながら走るのだが、今回は四人。
まだ信頼関係が築けていないこともあり、シューゴは『神力』を見せることを躊躇していた。
「このまま七階まで行きます!」
シューゴはリーに聞こえるように声を上げた。
さらに上に上がる。
八階、横穴が増えたということは、あの厄介な大ミミズがいる可能性が高い。
少し広い場所に出たので、一旦休憩にする。
御手洗の箱を出す。
「ありがとうございます」
ハツーナが駆け込んで行った。
「キクマ隊長。 ここから先頭をリーと交替します。 どうもミミズが多いようなので」
切っても切っても動く、厄介な魔物。
「分かった、ワシが後ろにつこう」
シューゴは無言で頷いた。
リーとキクマのカップに『神』の水筒の水を注ぐ。
「ふむ、美味いが不思議な水だな」
「頂きものでして」
水が湧き出る魔道具は存在するが、シューゴの水筒は『神』から授かったものである。
色々と入っている気がした。
「さて」と、気を引き締める。
次の階に調査員の気配があるのだ。
なんとしても、そこまでは辿り着きたい。
リーが、通路を塞ぐミミズたちを切り刻んで道を開ける。
他の者たちは少し離れて、体液を浴びないように気を付けていた。
いちいち浄化するのは面倒なのだ。
シューゴはハツーナの傍に付いている。
「足元に気を付けて」
「はい」
ミミズの肉片で床がぬかるみになって滑り易い。
「あ、あの、あの方に『浄化』をー」
ハツーナがリーを気遣う。
「いえ、あいつに関しては放っておいて大丈夫です。 ハツーナさんはキクマ隊長をお願いします」
後方から骨がガチャガチャとやって来る。
お互いに足場が悪いので戦闘には苦労していた。
七階への上り口を見つける。
「リー、止まれ。 隊長、先に階段を上がって様子を見て来てください」
「おう!」
キクマがリーと交替して慎重に上がって行った。
「ハツーナさん、今のうちに隊長を『清潔』に」
「えっ。 『浄化』はしましたけど」
「調査員には貴族もいるとか。 身だしなみで文句は言わないと思いますが、その、ミミズの匂いは強力なので」
「あー」
ハツーナがキクマに追いかけて『清潔』を掛ける。
その間にシューゴは、自分とリーに【浄化】と【清潔】を掛けた。
「なんか、おかしな気配があるよな」
リーの言葉にシューゴは頷く。
近くなったせいで様子がはっきり分かってきた。
七階の調査員たちは二人と三人に分かれている。
そして、その二組の片方に歪な魔力の塊が見えた。
「お、誰かいるぞ」
上り切ったキクマの声がする。
すぐに駆け出して行く。
「様子を見るんじゃなかったのかよ」
リーが呆れていると、ハツーナも後に続いて駆けて行く。
シューゴたちも七階の通路へ向かう。
「あー、あれは調査員の荷物持ちだな」
周りに荷物が散乱しているのが見えた。
荷物持ちなら平民だから遠慮なく声を掛けることにしたのだろう。
少し広めの通路に二人の男性が座り込んでいた。
「大丈夫か」
キクマが声を掛け、ハツーナが『回復』する。
シューゴは散乱した荷物を確認しながら片付けた。
「あ、ああ、助かった」
一人は声が出るようだが、もう一人は意識がない。
リーは周りを警戒する。
「いったい、どうしたんだ」
水を飲ませて、落ち着いたところでキクマが訊ねる。
荷物持ちは力のない声で返事をした。
「分からない。 お役人が道を間違えて、違う場所から上がって行って。 この通路の先で、何かあったのか、来るなって、大きな声がして」
ここに留まって指示を待っている間に魔物に襲われたそうだ。
狭い上に荷物を守りながらでは、戦闘職ではない二人には厳しい。
「食料や水を奪われてしまって」
悔しげに呟く。
「いや、よくがんばったな。 生きていただけでも立派だ」
キクマが荷物持ちの肩を抱いて慰める。
やがてハツーナの『神力』のお蔭で、もう一人の荷物持ちも目を覚ました。
「良かった、本当に」
「生きてたー!」
荷物持ちはお互いに抱き合い、泣き出した。
調査員は役人、騎士、斥候兵に荷物持ちが二人の五人組。
そのうちの役人と騎士は貴族で、役人というのは女性らしい。
「なんか、高貴な方らしくて、姫さんって護衛の騎士が呼んでたよ」
我が儘で、騎士も手を焼いていたという。
何日倒れていたかは分からないらしいので、シューゴはスープを取り出し、白湯で薄めて飲ませた。
何日も食べていない人は急に食べ物を口にしても消化が難しいことを、シューゴは治療院の知識として知っていた。




