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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第五章 王都到着

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84・同行者の条件


「これは私からです。 熱いうちにどうぞ」


マスオルは、妻が作った朝食を籠に入れて持って来ていた。


歯応えのあるパンを軽く炙り、野菜スープのポットまで付いている。

 

「ありがたく頂きます」


シューゴは籠を受け取った。




「それはいいな。 ワシにも一つ、もらえないか」


いつの間にか、門の反対側で眠っていた男性が傍に来ていた。


「ええ、どうぞ」


シューゴは彼に籠を渡す。


 その男性は中年というにはまだ若く、シューゴたちよりは年嵩としかさに見える。


「シューゴ?」


朝食を食べる知らない男性を見て、リーが渋い顔になる。


「リーさんもどうぞ」


マスオルは大食漢のリーにも用意していた籠を渡す。


それを受け取ったリーは機嫌を直した。




 マスオルはシューゴから「同行者が集まり次第出発したい」と聞いていた。


門の中に入るためには組合長の委任状が必要で、それ自体は既にシューゴに渡している。


問題は、昨日頼まれた物が間に合うのか、と、同行者が来てくれるのか、だった。




 シューゴは紙に書かれた特徴から、そこにいた男性が同行者だと確信していた。


「リー、この方は同行者の一人だよ」


「うむ。 兵士組合長から頼まれたキクマだ。 よろしく頼む」


男性は軽く礼を取る。


雇兵を生業なりわいとしていて、迷宮にも一度護衛として入ったことがあるので、今回の救助隊の代表ということになる。


責任感が強い彼は遅れてはいけないと思い、昨夜からここに居たという。


「私はー」


シューゴが名乗ろうとした時、朝靄の中から小走りの足音が聞こえて来た。




「すみません、遅れましたか?」


東の教会で出会った神官服の女性ハツーナだった。


彼女が教会警備隊隊長トォモルの弟子らしい。


 キクマが朝食の籠を勧めたが、彼女は断り、息の乱れが治るのを待つ。


「昨日、打診が来て、今日の早朝出発とは思いませんでした」


不満が顔に出ている。


正直な女性だな、とシューゴは思った。




「揃ったようですね、では。 私は収集屋のシューゴ、彼は相棒のリーです」


「よろしく!」


「では、この二人がー」


隊長キクマがマスオルに確認する。


「はい。 申し訳ありませんが、キクマ様、ハツーナ様」


マスオルは誓約の紙を取り出す。


「昨日、お話ししました通り、こちらの誓約書に署名して頂くことが同行の条件となります」


紙の下に板を当て、ペンを添えて、まずはキクマに渡す。


「ああ、ワシは構わんよ。 救助が上手くいくことが一番だからな」


署名してハツーナに渡す。


「わ、私も同じです。 どうせ迷宮の中だけのことですから」


しかし、シューゴの顔を見てハッとする。


「え……まさか」


「はい。 ロウくんたち三人をお預かりしている貸し部屋の家主です」


シューゴはヘラリと笑う。


ハツーナは迷いながらも、


「で、でも、やっぱり救助が優先、ですしー」


と、署名した。




 マスオルは誓約書を受け取り、魔力石を取り出す。


魔力石としては大きいこぶしくらいの石だ。


これはかなり高価な誓約になる。


それを使ってでも秘密裏に助けたい、ということなのだろう。


「では発動いたします」


マスオルが魔力石を使い、誓約書に触れると同時に石は割れる。


蓄積された魔力が失くなったのだ。


そして、キクマとハツーナが一瞬、ピクッと反応した。




 シューゴは門兵に組合長からの書状を見せて、通用門から中へ入った。


「では私はここで」


マスオルは門の外で四人を見送る。


「ふむ。 では行こうか、あー、あー?」


キクマは誓約の効果でシューゴとリーの名前を呼ぶことは出来ない。


「収集屋とお呼びください、キクマ隊長」


「うむ、よろしく頼む」


シューゴたちはキクマの後ろにハツーナを歩かせ、自分たちはその後ろについて行く。


 通用門から城壁に沿って奥へと向かう。


広場のような場所に出ると、兵士たちの姿がチラホラ見えた。


「ここは騎士団の訓練所だ」


騎士団の宿舎、整地された訓練所。


その奥の突き当たりの壁に、大きな両開きの鉄の扉があった。


それが迷宮の出入り口である。


迷宮の扉の前に騎士団の施設があるのは、監視しやすいことと、魔物などが出て来た場合に対処するためだそうだ。




 見張りは若い騎士たちの仕事で、シューゴたちが来ると重い扉を開けてくれた。


「お気を付けて」


無言で会釈し、キクマを先頭に中へ入る。


石畳の床、広い真っ直ぐな通路。


入り口付近だけは魔道具の照明で明るいが、地下への階段は闇の底へ続くように暗い。


 シューゴは【収納】から大型のカンテラを出してキクマに渡す。


「お、すまん。 ありがとう」


「いえいえ。 荷物持ちですから」


ヘラヘラと笑いながら、リーにもカンテラを渡す。


本来ならリーには明かりは不要だが、ハツーナを不安にさせるのは良くない。


ちゃんと後ろにいる姿を見せておく。




 長い階段を下りきった。


「ここからが地下迷宮だ」


キクマがカンテラを高く掲げる。


暗い土壁はうねり、自然のままの狭い通路が続いていた。


なるべく四人で固まり、少しずつ先へ進む。


「キクマ隊長は何階まで行かれたのですか?」


「地下十階だ。 そこに王宮の地下を支える魔力石がある」


年に一度は点検のため、必ず誰かが行くと言う。


「魔獣や魔物がいると聞きましたが、キクマ隊長は戦われたのですか?」


「うむ」


シューゴはキクマと会話を続け、リーは珍しそうにキョロキョロしていた。



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