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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第二章 シリエスタル村

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37・『神力使い』の兆し


 ムラトは次の課題をシューゴに告げる。


「大切なものを『隠せ』と呟いてマントの中に入れる」


試しに小石をいつもの小袋に入れるつもりで、マントの内側に『隠せ』と呟き、手を入れて離す。


小石は落ちることなく別の空間に納まった。


「入ったー」


シューゴはホッとした表情になる。


「これからは、このマントを使って自分自身を守るんだ」


金や物だけではない。


スッポリとフードを被ってしまえばシューゴ自身も隠してくれる。


家の中以外では常に身に付け、誰かに見つかりそうになったらフードを被って『隠せ』と祈ればいい。


それが次の『神力』の訓練である。


「シューゴ坊ちゃん。 これからは自分自身を大切にしてください」


「うん」


シューゴの返事にムラトは満足気に微笑んだ。




 しばらくの間、マント姿のシューゴは村の子供たちに笑われた。


「汚ねえな、こっちくんな!」


と、ザンタが笑いながら村の子供たちにシューゴをわざと見せものにしたのだ。


しかし、七日もすると周りも慣れてきた。


汚い色をしたマントだが、よく見れば魔道具だと分かる。


気付いても口にする者がいなかったのは、英雄チュージなら持っていても当然であり、愛妻に良く似た末っ子に与えても不思議ではない。


母親のシリエスタルからは「誰に貰ったの?」と訊ねられた。


シューゴが正直に「ムラトさんから」と言うと、それ以上は何も言われなかった。




 翌年、九歳になったシューゴは恒例のいちで再び苗木を選んでいた。


密かに植えた前回の苗は立派に育ち、母親の窓に届き、良い香りの白い花を咲かせてくれたのだ。


それに気を良くしたシューゴは次の苗を探しに来た。


 今朝も父親から貰った小遣いはフタオとザンタに奪われている。


というか、親からの小遣いはどうせバレるので隠さずに渡せるようにしていた。


渡してしまえば、それ以上は絡んで来ない。


下手に『隠し』ていることを探られるよりはマシだ。


サッサと渡して別れ、すぐに姿を『隠し』て市に来た。




 今日は前回買った店で、見かけはただの草花だが地中に実が成るという野菜の苗を選んだ。


こっそり育てて自分で食べるためである。


「コレはどうやって育てるの?」


この辺りではあまり見かけない苗だ。


「それなら、あの爺さんの所で育て方の本を売ってるよ」


「ありがとう」


シューゴは店主に教えてもらった雑貨の露店に向かった。


「この苗の育て方の本をください」


「そうだなあ。 これなんかどうだ?。 こっちも良いぞ」


「じゃあ、これで買えるだけください」


『隠し』持っていた小遣いを手のひらに出して見せる。


「ほいよ」


シューゴは買った本をマントの中に隠した。




 しかし、決して家で本は読まない。


ザンタに見つかると破られ、捨てられるからだ。


今までもムラトや文官から借りた本をベッドで読んでいたら、「生意気だ!」と取り上げられている。


ザンタは自分が読めない本を年下のシューゴが読めることが気に入らないのだ。


(読めるようになればいいのに)


憐れみの目を向けたら殴られるので、シューゴは俯き泣いているフリをした。




 本はもっぱらムラトの家で読ませてもらっている。


「こんにちは」


「シューゴか、ゆっくりして行きな」


ここなら、兄たちに見つかってもムラトの本だと言えば捨てられることもない。


分からない文字はムラトが教えてくれる。


「長い間、治療院で寝てたから勉強したんだ」


ムラトはそう言って照れた。




 シューゴは十歳になった。


あまり人とは話さない少年になっていた。


話しかけられると、ただ黙って愛想良くヘラリと笑うだけである。


『神力』の修行は真面目に続けていた。


掃除、洗濯、農機具の手入れに加え、食事の準備も始めている。


 お蔭で、今まで通って来ていた家政婦は用済みになった。


シューゴのほうが早く綺麗になるため、仕事がなくなったのだ。


「これからもアカク様を大切にしなさいね」


そう言って家政婦は引き下がった。




 朝食は唯一、家族皆で一緒に食べる。


シューゴはその片付けの後、午前中に掃除と洗濯を終わらせて昼食を作り、ムラトが来たら一緒に畑まで運んで行く。


マントを着たシューゴにムラトは話し掛けた。


「すっかり『神力』を使いこなしているようですね」


「ありがとう」


ムラトに褒められてシューゴは久しぶりに心から笑顔になる。


「そろそろ次の段階に行こうか」


「えっ、まだあるの?」


シューゴにすれば、このままでも十分、生活が楽になっているので困惑した。




 ムラトは首を横に振る。


「坊ちゃんは、このまま一生、開拓村にいる気ですかい?」


「えっ」


「もっと大きな街に、広い世界に出たいと思わないか?」


考えたこともなかったシューゴは目をパチクリする。


「村の外で生きていくために必要なことを考えてみましょう」


「あ、はあ」


シューゴはムラトから一冊の本を渡された。


「へっ?」


「村の外にいる魔獣や魔物の図鑑です」


中を開くと、今まで見たこともない獣や植物、異形が描かれていた。


「外を恐れるのは出会ったことのない生き物がいるからです。それらの対処方法が分かっていれば、そんなに恐れることはありません」


シューゴはムラトを見上げる。


「何かあったの?」


シューゴは心配になってきた。


ムラトが何を考えているのか分からなくなったのである。



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