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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第一章 アヅの街
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3・不思議な力


 この世界で魔法を使うのは魔族と呼ばれる魔獣や魔物たちだけである。


魔族は体内に魔法の素となる魔力石があり、人間はそれらを倒して魔力石を取り出し、それを動力にした魔道具を作る。


それは何故か。


人間には魔力がないからだ。




 街の隅にある小さな空き地。


シューゴは三日間の収集から戻ると、大抵ここにテントを張っていた。


特に寝る場所にこだわりがないので、宿代の節約にもなる。


 街中なのに何もない、全く整備されていない場所。


なのに、なんとなく落ち着く。


最初に街の役所にも確認は取ったが、とくに所有者はいないとして街の住民の出入りは黙認されている。


「テントを張って寝泊まりしても?」


「問題が発生したら、すぐに立ち退いてもらいますが」


と、無事に役所からの許可が下りた。


職業組合にも「あちこち移動しなければ良い」と言われている。


シューゴはこの街にいる間は、この場所で寝泊まりすることにした。




 空き地の隅にある薮の中で周囲を見回し【テント】と小さく呟く。


透明の布のようなテント状のものがシューゴの周りに出現。


シューゴの姿は見えなくなり、そこに【テント】があることも全く分からない。


その中で腰を下ろし、肩掛けの布鞄から革の小袋を取り出し、シューゴは残りの硬貨を数える。


「ふう、ほぼ使い切ったな」


幼い頃から、いつも三人の兄たちに小遣いを奪われていたシューゴはお金を貯めるということが出来ない。


「どうせ奪われるなら、すぐに使い切ってしまえ」


それが身に付いていた。




 先ほど購入したコンロを真ん中に置き、小型の鍋を乗せる。


水筒から小鍋に水を入れ、【種火】と囁いてコンロの下に小さな火を揺らめかせる。


【収納】から引っ張り出した手には茶葉の入った缶があった。


布鞄からカップを取り出す。


小鍋が一煮立ちすると、コンロから下ろして茶葉を入れ、しばらくしてからカップに漉したお茶を入れる。


空いたコンロには【収納】から取り出した、スープの入った鍋を乗せた。


野外活動用に作った残りである。


【収納】に入れておけば生ものは腐らないが食べてしまうつもりだ。


シューゴは食事にも拘りがない。




 ついでに食材の在庫確認もする。


「食料、どれくらい残ってたかな」


シューゴの服からは次々に【収納】されていた食料品が出てきた。


実際にはどこの空間からでも取り出せるが、あまり目立たないように鞄や服のポケット、懐から出てくるように見せかけている。


「ああ、まだパンがあるし、果物もあるな。 しばらくは買い足さなくてもいいか」


そして、パンを一つ手に取り、残りは【収納】に仕舞う。


スープが温まるとコンロの火を消し、【収納】から取り出した器に盛って、パンを齧りながら啜った。


 食事が終わると鍋やカップなどを並べて【洗浄】と呟き、綺麗になったそれらをまた【収納】に戻す。

 

粗熱が取れたコンロは大きい物を入れている【大収納】に納め、そこから毛布を取り出した。




 この、シューゴの不思議な力は世間では『神力』と呼ばれているらしい。


『神に愛されることで得られる力』とされ、この能力があると知られると教会に所属しなければならなくなる。


そんなことは真っ平御免だ。


シューゴは【収納】や多少の不思議な力は、そういう魔道具を手に入れたことにして誤魔化している。


「神様、今日も一日ありがとうございました」


強く強く念じて、シューゴの一日が終わる。




 翌日、シューゴは【テント】を片付け、ひと気のない空き地で背伸びをした。


「ふあー、やっぱり街中はゆっくり寝れるなあ」


いくら姿を消していても【テント】は完璧な安全地帯ではない。


偶然に大型魔獣が通り掛かれば踏み潰される。


やはり高い防御壁に囲まれた街の中は安心して眠れた。


 人々はすでに動き出している時間。


人混みが苦手なシューゴは、なるべく他人とは時間帯をずらして生活している。


以前、空き地の隅にベンチ代わりになりそうな手頃な大きさの岩を置いた。


それに座って水筒に入っている水を飲む。


朝食をどうしようか、いや、もう昼が近いだろう。


ボーッと考えていると、三人の子供たちがやって来て空き地で遊び始めた。




 シューゴがこの街に来て五年。


よくこの空き地で寝泊まりしているため、彼らとはすっかり顔馴染みである。


「おはよー」


「にいちゃん、まだ寝てたんか。 もう昼だぞ」


シューゴの細い垂れ目は目を開いていても眠そうに見える。


「そっかー」


ヘラヘラと笑うシューゴは無害に見えるらしく、子供たちは警戒せずに近寄って来る。


「もう昼なら、そろそろ姉ちゃんが迎えに来るんじゃないか?」


シューゴが訊ねると上の二人の男の子たちは顔を見合わせ、一番小さな女の子がぐずり出した。




「グスッ」


シューゴは慌てる。


「ごめん、なんか悪いこと言ったか?」


空き地でよく会う子供たちは、十二歳と十歳と七歳の兄妹。


その兄妹の上の姉が子供たちの面倒をよく見ていた。


シューゴもたまに見かけたら挨拶くらいはする。


しかし、彼女には警戒されているらしく言葉を交わしたことはない。


「姉ちゃん。 娼館に売られちまったんだ」


一番上の男の子がポツリと溢す。


「……そか」


さすがにシューゴの顔からも笑みは消えた。



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