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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第一章 アヅの街

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25・事情聴取


「昨夜、どこにいたんだ?。 こっちは大変だったんだぞ!」


「あー、うーん」


シューゴは言葉を濁し、リーに先を促す。


「何が大変だったの?」


「追い回された」


兵士として雇いたいとか、結婚相手にという話まであったという。


「とにかく!、男女関係なく話し掛けられたんだ」


「そりゃあ、大変だったな」


シューゴは適当に相槌を打ちながら朝食の準備をする。




「だけど、それって夕べの話なんだろ?」


パンと炙ったハムをリーに渡す。


「はあ、いい匂い!。 それが、朝になっても宿に人が押し掛けてくる始末でさ」


リーはパンにハムを挟んでスープを受け取ると、愚痴を続ける。


「その中には『シューゴはどこにいる?』って言ってるヤツもいたぞ」


「えっ」


シューゴは固まる。


まさか自分まで巻き込まれるとは。




 しかし、その人たちは何がしたいのか。


「雇いたい」なら雇兵の依頼を出せば、もっと強い兵士を雇える。


「結婚話」など、よく知らない相手と結婚したがるなんて意味が分からない。


金が目的なら、それこそ討伐隊で活躍した兵士たちにしろ、と言いたい。


「しらね」


あまり他人の噂に興味がないのは、シューゴもリーも同じ。


だが、これは自分たちのことである。


「組合に行って聞いてみるしかないか」


二人は食事を終わらせると【隠蔽】を掛けた状態で【テント】から出る。


ふと、空き地の隅でチエルの弟たちが、


「背の高い藁色の髪の男を知らないか」


と、誰かに訊ねられているのが目に入る。


「知らなーい」という声に安心しながら、シューゴは組合裏の倉庫に向かった。




 いつも開きっぱなしの倉庫の扉が閉まっている。


「こんにちはー」


シューゴたちは恐る恐る扉を開いて中を覗き込む。


「ん?。 シューゴとリーか。 入れ入れ」


シンゾー老人の声がする。


「お邪魔します」と中に入って、すぐに扉を閉めた。


倉庫の隅にある事務所からシンゾー老人が手招きしている。


二人はそちらに向かって歩いた。


 今日は倉庫担当の若い職員たちが領主館で盗賊の財宝鑑定に駆り出されている。


そのため倉庫は閉めていた。


「シンゾーさんは行かないんですか?」


そういう時こそ、熟練者の目が必要なのではないかとシューゴは思う。


「ハッハッハ、ワシはもう引退寸前の年寄りだからな。 若いもんに任せたわい」


シューゴたちは、とてもそんな風には見えないと苦笑した。




「どうだ、大変だったか」


シンゾー老人は二人の状況を把握しているようだ。


「なんで皆、俺なんかを追いかけ回すのかな」


リーが不貞腐れている。


シンゾーは笑いながら二人にお茶を淹れてくれた。


「まあ、あれだ。 むさ苦しい兵士たちより、若い『収集屋』の方が親しみやすいって思われたんだろう」


きちんと雇われている私兵や警備兵と違い、雇兵はどうしても乱暴者として扱われることが多い。


しかも、今回の討伐隊に参加していた雇兵の一団が裏切り者として捕らえられた。


雇兵の評判が悪くなっているのだ。


「そこへ留守番の警備兵たちが、お前たちの活躍を広めたからなあ」


若い『収集屋』の二人組が女性たちを助けた。


あっという間に噂は広まり、二人の人気が急上昇。


ぜひ、お近付きになりたいという人々が押し掛けて来たということらしい。


「雇いたい」とか「結婚話」なんてものは口実で、ただ人気者と話がしたいだけなんだそうだ。


「なんだよ、それ」


リーは呆れてしまう。




「そういや、討伐隊の報酬はまだ時間がかかるが、お前たちも受け取れるぞ」


討伐隊に入っていなくてもシューゴたちの情報は貴重なものだ。


それが評価されて報酬が出ることになっていると言われた。


「分かりました」と頷くと、シンゾー老人がシューゴを睨む。


「シューゴ。 お前、娼館に馴染みの女でもいるのか」


ブッ、と盛大にお茶を吹き出すシューゴ。


「な、なんで」


「お前は目立つからなあ」


背の高さと藁色の髪が目立つ。


「えっと……はい」


「えっ、ホントなの?!」


赤くなるシューゴに、リーは大声で訊いた。




 シンゾー老人は、大金を手にしたシューゴがまた娼館で散財するのを心配しているらしい。


「まあ、若い男なら娼館通いは構わん。 じゃが、ワシが心配しとるのはシューゴが本気で女に惚れてるのかどうかだ」


シンゾー老人の言葉にリーは笑い出す。


「あはは、そんな訳ないでしょ。 相手は商売なんだし」


リーは笑い飛ばそうとしたが、シューゴの真剣な顔に笑顔が止まる。


「まさか、嘘だろ」


シューゴは赤い顔で俯いていた。




 そしてポツポツと事情を説明する。


「そうか。 やはり知り合いだったか」


彼女は借金の形に売られたばかりで、シューゴが娼館に行き始めたのも最近だ。


大金を稼いだ時には彼女に会いに行きたいと正直に話す。


「なんだよ、そのクソ親父」


リーはチエルのために怒ってくれた。


シューゴは苦笑する。


「だけど、僕は彼女の父親にも何か理由があったと思っているんです」


酒浸りになるきっかけが。


「ふうん。 じゃ、それは俺が調べてやるよ」


酒場に顔が利くリーが調べると言い出す。


「ありがとう、リー」


何故か、リーとシンゾーから憐れみの目で見られているシューゴだった。



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