21・討伐の裏
じっと【探索】で様子を見ていたシューゴが呟く。
「馬の足音が多いな。 移動しているから数は特定出来ないが」
それにリーが応えた。
「馬車が二台。 一つは幌の付いた荷馬車だ。 護衛らしき騎馬が六、いや七騎かな」
リーは恐ろしいほど目が良い。
「なら、大剣の男が言ってた商人かな」
今、盗賊たちと合流されるのは不味い。
洞窟の出入り口を包囲している討伐隊が後ろから襲われたら混乱するし、いくら人数に大差があっても、多少の被害者が出るかもしれない。
盗賊にも逃げられてしまう可能性がある。
シューゴは顔を顰めた。
なんとしても、あの一行を止めなければならない。
「僕が囮になって荷馬車を奪う。 何人か引き付けるから、残りはリーに頼めるか」
「任せろ」
リーは暴れられるとほくそ笑む。
「足止めでいいんだ。 適当に逃げろよ」
討伐隊に騒ぎが届けばいい。
静かな夜だ。
手練れの兵士なら、森の外であっても何かあると気付くだろう。
シューゴはリーにくれぐれもやり過ぎないようにと釘を刺す。
「分かった」
笑顔で頷くリーが簡単にはやられないことは分かっているが、念の為だ。
「よし、行こう」
シューゴたちは立ち上がった。
崖から降りた二人は真っ直ぐに不審者一行に向かう。
【早足】で速度を上げたシューゴは、途中で【隠蔽】を使って姿を消す。
足音もさせず、まるで飛ぶように走るリーは一行の正面に回る。
シューゴの気配が荷馬車に近付いたことを察して、リーは声を出した。
「やあ!、こんばんは。 御一行はどこへ行くのかな?」
驚いた馬が嘶き、馬車が停まる。
「誰だっ!」
先頭の護衛が暗闇から突然現れたリーに向かって大声を出す。
「それはこっちが訊きたい。 あんたら街の者じゃねえな」
少年のように小柄な体、艶やかな黒髪に黒い目が月の光に反射して金色に光る。
口元に不気味な笑みを浮かべて。
その時、後方の荷馬車から「わあっ」と声がして、御者が転げ落ちる。
リーの目には【隠蔽】を解いたシューゴが荷馬車を奪ったのが見えた。
そのまま街に向かって走り出す。
「チッ」「追えー!」
護衛のうち、何人かがシューゴを追って行った。
「仕方ない。 あれは後で回収する。 それより今は急げ」
護衛の責任者らしき男はリーを無視した。
前方にいる邪魔者が一人だと気付いて、馬車は普通に避けて通ろうとする。
だが、馬が怯えて進むことを拒否。
「どうした」「いや、それがー」
一行の足が完全に停まる。
細い剣を抜いたリーが再び問う。
「お前ら、盗賊の仲間か」
「どけっ!」
気の短い男が馬からリーに斬り掛かる。
「ぐえっ」
ドスッと重い音がして、一瞬で男がリーの足元に転がった。
「安心しろ。 盗賊の仲間じゃないなら殺しはしない」
「くっ」
一人が無理矢理騎乗したままリーの横を抜けようとしたが、途中で止まった馬から振り落とされた。
「なんだ、キサマは!」
馬から降りた護衛たちがリーを囲むように動く。
その頃、シューゴの荷馬車は街の門の近くまで来ていた。
不意を突かれ初動が遅れたため、なかなか追い付けない護衛たち。
それでも荷馬車の方が遅いのは当たり前だ。
「ごめんな。 後で癒してやるからな」
シューゴは荷馬車を引く馬に【疾走】を掛けた。
門番は恐ろしい速さの荷馬車を見つけてポカンとしている。
「開けてくださーい!」
御者席からカンテラを振り、シューゴが力の限り叫ぶ。
「ありゃあ収集屋か。 なんか言ってるな、開ければいいのか?」
「このままじゃぶつかる。 開けてやれ」
今夜、討伐隊を送り出した警備兵たちは盗賊退治の失敗を懸念して警戒を強めていた。
そこへ不審な荷馬車がやって来たのだ。
シューゴ自体は珍しい藁色の髪と高い背丈の有名人で、街の者なら誰でも知っている。
しかもそれを追って来る騎馬も見えた。
「おい、皆を呼んで来い!」
門の中では緊張が走った。
門が開き、シューゴの荷馬車が滑り込む。
全力で走っていたため、後続の二体の馬たちも停まれずにそのまま門を潜った。
「門を閉じろ!」
誰かの声がして、ガラガラと門が閉ざされた。
荷馬車を追って来た護衛たちがようやく停まる。
警備兵に囲まれ、馬から降ろされる。
「な、なんだ。 オレたちはただ盗まれた荷馬車を取り返そうとしていただけだ」
「本当か?」
警備兵たちは胡散臭そうに彼らを見る。
そこへ通り抜けたシューゴが荷馬車とともにゆっくりと戻って来る。
「アイツだ!、オレたちの荷馬車を盗んだのは」
荷馬車の護衛たちは口々にシューゴを捕まえろと叫ぶ。
「捕まるのはアンタたちだよ」
シューゴは警備兵たちに荷馬車の中を見せた。
「こ、これは!。 おい、そいつらを取り押さえろ!」
荷馬車には縛られた数名の若い女性たちがいたのである。
その頃、西の草原では。
「ヒ、ヒィィ」
リーは一番強そうな男に突っ込んで行き、重い剣で滅多打ちにした。
リーの片刃の剣は斬るだけでなく、打撃も効果がある。
細いが鉄の棒のように硬く重い。
それを見た五人の護衛たちはすでに戦意を失っていた。
「助けてくれ!」
黒塗りの頑丈そうな馬車から出て来た商人風の男が、地べたに伏して「見逃してくれ」と懇願する。
「悪いけど、それは俺の相棒が判断するから」
リーは彼らを馬車に詰め込み、馬を宥めすかして街へ向かった。




