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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第一章 アヅの街

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19・討伐と採集


 シューゴは今朝、まだ夜が明けきらないうちに目が覚めた。


人肌の暖かさで思ったより深く眠っていたらしい。


気が付くと、ピッタリと寄り添うチエルがシューゴを背中から抱き締めているような状態だった。


(まずい!)


シューゴは自分の体の変化に驚いて飛び起きる。


しかし、どうすることも出来ず【隠蔽】で姿を消して、部屋をそっと抜け出すしかなかった。


「すみません、帰ります」


【隠蔽】を解き、出入り口に立つ用心棒に一言だけ声を掛けると「うむ」と頷かれた。




 なんとか空き地まで戻って来た。


シューゴは【テント】の中に入り、座り込む。


「ハァハァ」


チエルの匂いやぬくもりを思い出すだけで体が熱くなり、悶々とする。


「このままじゃ駄目だ」


今日はリーと西の草原で採集する予定だ。


盥に水筒の水を出して顔を洗う。


なんとか体の熱を冷まし、出掛ける支度を始めた。


(朝食は組合の食堂にしよう)


シューゴはいつもより早い時間であることを忘れて組合に向かった。




 朝の混雑する時間に組合を訪れたシューゴ。


出入りする大勢の人たちを見て、早く来過ぎたことを悟る。


まあ、着いてしまったものは仕方がない。


「おはようございます」


食堂の店主ホーダツに声を掛ける。


「おう、早いなシューゴ。 いつもので良いか」


「はい」


仕事前に朝食を摂る人々で混む食堂の隅に座る。


あともう少しで人の数は減るだろう。




「お前たちも盗賊狙いか」


馬鹿にしたようにシューゴに声を掛けて来たのは、先日森の外で食料をねだって来た男だった。


確か、リーが雇兵をしていた時に所属していた団体の古参だと訊いている。


「いえ、僕たちはまだ『緑』なので」


「あー、そうだったな。 かわいそうに、リーもうちに戻れば暴れさせてやれるのに」


ニヤニヤとした顔を寄せて来た男に、シューゴは素知らぬ顔で訊ねる。


「皆さんは今から盗賊狩りに行くんですか?」


シューゴは羨ましそうにヘラリと笑う。


「いやあ、まだ居場所が見つからないからなあ。 オレらは毒蛇探しよ」


なるほど、彼らの団体は今夜の作戦には呼ばれていないようだ。


(内通していそうな者は排除しているのか)


討伐の決行は本日の深夜、街が寝静まる頃に出発し、早朝までに片をつけると聞いた。


僕たちは、その頃には西の草原で【テント】で寝泊まりしながら採集しているだろう。


「頑張ってください」


「お前らに言われるまでもないわ」


シューゴのヘラヘラした態度が気に食わなかったのか、舌打ちして離れる。


仲間たちを引き連れ、組合を出て行く姿が見えた。




 あの男は、おそらくリーを探していたのだろう。


シューゴから見ると、腕の立つリーが盗賊退治に参加するのを警戒しているように見えた。


出来るなら仲間に取り込みたいのかもしれない。


「リーはめちゃくちゃ強いからなあ」


「誰が強いって?」


リーが隣に座った。


「あはは、おはよう」


シューゴたちは朝食を摂りながら打ち合わせをする。




 東門から出て、南周りで西の草原に向かう。


「今日からいつも通りの予定でいいのか?」


これから草原で二泊しながら採集をして、三日目の昼頃に街へ戻る。


「うん。 監視の兵士にはそう言ってある」


盗賊情報を組合に伝えてから、二人には監視が付いていた。


地下水路に毒蛇を放った犯人がまだ見つからないからだ。


「街の役人の話じゃ、毒蛇を使って街を混乱させるつもりだったんじゃないかって」


そのどさくさに紛れて盗賊たちがアヅの街に侵入する予定だったのではないか、と言われている。


「リーが退治したから街に入れず、洞窟に隠れてるんじゃないかって」


「俺のせいかよ」


「リーのお蔭だよ」


シューゴとリーは笑い合う。




 いつものようにシューゴが【探索】を使い、薬草と小動物を見つけ、リーは襲ってくる危険な獣を狩る。


火が落ちる前に山の崖の傍に【テント】を張った。


今夜は隣の森で戦闘になるので、予め気配は消しておく。


「そういえばさ。 誰かがシューゴが娼館に入ってくのを見たって言ってた」


シューゴはスープを作っていた手を止める。


別に隠しているわけではないし、リーなら話しても構わない。


そう思い、シューゴは正直に頷いた。


「大金が入ったからな。 使い切るにはあそこしかないかなーと」


目を丸くしたリーをは「確かに」と笑った。




「リーはお金を貯めてるよね。 何に使うの?」


リーは宿と食事は質の良いものを求めるが、決して高ければ良いとしているわけではない。


シューゴのように使い切ることなどなかったから貯めているのだろうと分かる。


「俺は」


リーは手を持ったパンを見つめながら、少し考える。




「俺の生まれた村は貧しくてさ」


特に冬は長く雪に閉ざされる。


そのため、村の男たちの多くは出稼ぎに行く。


「俺の一番仲の良い奴が村長の息子でさ。 そいつが村を守ってて外には出られないんだ。 だからさ、俺がそいつの分も稼いでやってるんだ」


初めて聞いたリーの故郷の話にシューゴは微笑んだ。


「仕送りしてるのか?」


リーが故郷に帰っている様子はない。


「金が貯まったら、一度帰って渡そうと思ってる」


そのためずっと持ち歩いているようだ。


「へぇ」


シューゴが感心していると、リーは照れくさそうに盛大な音を立ててスープを啜った。



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