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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第一章 アヅの街

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11・北の森


 組合に着くと、何故か建物内はたくさんの人で溢れ返っていた。


「えっ、なにこれ」


「シューゴ!」


リーの声はするが、小柄な姿は人垣に埋もれていて見えない。


困っているとグイッと腕を引かれ、そのまま引き摺られて裏口へと移動する。


途中でナナエの姿も見えたが、忙しそうなので挨拶だけにとどめた。


「ふう。 シューゴは背が高いから人混みでも分かりやすくて便利だな」


裏から外に出ると引っ張っていたリーが、シューゴの腕を離して笑う。


「リー、あの騒ぎはなんだ?」


シューゴは怪訝な顔で訊ねる。




 そこへ倉庫からシンゾー老人がやって来た。


「毒消しの素材収集の依頼じゃよ」


今朝、街から正式に依頼が出たのだが破格の引き取り額になっていたそうだ。


「しかも『青』にも許可された」


「ええっ」


相変わらず無茶な依頼をする。


「そのせいで朝から依頼書を寄越せって人がいっぱいでさ。 この様子じゃ、もう北の森は人で動けねえよ」


街からの緊急依頼なので受注人数に制限が無い。


そのため、噂を聞き付けた様々な職業の人たちが集まっていた。


リーはシューゴに「どうする?」と訊いてくる。


「僕はもう受注したからな」


昨日、『緑』指定の依頼書をナナエさんにコッソリ渡されたのだ。


(やっぱり僕に受注させるために昇格させたんじゃないか?)


昨日の疑問がまた頭を過ぎる。




「じゃあ俺たちも行くか」


リーが一番近い北の門に向かおうとするのを、シューゴは止めた。


「森が人でいっぱいなら僕たちは違う場所を探そう」


街の北を流れる川は北の森の奥にある山から流れて来る。


毒蛇が街に入るとしたら、この川から水路に入ってしまったと考えられた。


「はあ?。 また地下水路でも行こうってのか、シューゴ」


リーは管理官に嫌な顔をされたことを忘れていないらしく口を尖らせる。


シューゴは首を横に振った。


「いや、そうじゃない」


肩掛け鞄から手製の周辺地図を取り出す。


「北の森にいた獣たちはどこへ移動すると思う?」


シューゴはリーに訊ねた。


「ここが北の森だろ。 街から人がいっぱい行くから……東か西の草原?」


「うん、そうだね」


森からあぶれた者は皆、そっちに行く。




 街は防御壁に囲まれているが門は二つ。


アヅの街は三方が草原で北側だけに森があり、シューゴたちは北門から採集に出ることが多い。


もう一つは農家や酪農家が使う東門。


農業や酪農をやっている者は街の中でも東門に近い場所に集まって生活している。

 

その中には東門近くの街の外に家畜の放牧場や農地を持っている者もいた。


彼らは夕方には街中に戻るため東門は混み合う。


「だから僕たちは陽が落ちる前に、東門から北の森の奥に行こうと思う」


森を迂回して草原から山に直接入るつもりだ。


「森の奥だって?」


シンゾー老人が地図を覗き込む。


「森林蛇は草原より木々のある山へ向かうと思うんです」


「なるほど」


シンゾー老人は頷いた。




 おそらく、今からシューゴたちが北門から出ると、必ず誰かが後をつけて来るだろう。


これでもシューゴは『収集屋』として顔が売れている。


娼館の支配人も知っているくらいに。


「だから僕たちは一旦東門から出て、防御壁沿いに南周りで西へ。 そのまま森の西側に沿って山に入ろう」


東門なら人が少ない。


「分かった。 どうせ俺たちは街の外で三日間は活動予定だし、急ぐ必要はないしな」


シューゴはリーの言葉に頷く。


「別に僕たちでなくても、必要な分量が集まればいいんだから」


「え?。 じゃあ、なんで北の山に行くんだ?」


リーが首を傾げた。


「集めるのは蛇だけじゃない。 僕たちはいつもの採集の仕事に行くんだよ。 蛇はついでさ」


森が混んでるなら違う場所に行けばいい。


そこに収集を依頼されたものがあれば、なお良し。


「あ、そうかー」


そうしてシューゴたちは午後から出発した。




 東門の兵士に挨拶し、しばらくは道なりに進む。


家畜を眺め、小麦畑の道を行く。


「後をつけて来る者はいないな」


リーがこっそり周りを警戒している。


「ああ、大丈夫そうだ。 じゃ、ここから南に行こう」


街の防御壁を見ながら南にグルッと回り、西の草原に出る。


そこから更に北に見える森の西側の外周を歩いて、山裾に出る頃には陽は落ちていた。


「まだ少し人が居るな」


昼間はもっとすごかったと予想出来るほど、未だに森の中に多くの人の気配がする。


その中で普段から野営に慣れていない職業の人たちは街へと戻って行く。


だが、今回の採集依頼に参加した中には野営に慣れた狩人や兵士たちがいるようで、そんな一団がまだ残っている。


「アイツらには近寄らないのが一番さ」


リーは何らかの被害に遭ったのか、吐き捨てるように言った。




 東門から、ずっと右に向かって移動して来た。


シューゴたちは森には近寄らず、草原を抜けた先にある山の崖の傍で普通のテントを張った。


「どこで誰が見ているか分からないから、ここでは力を使わないようにするよ」


シューゴがそう言うと、リーも賛成した。


森の近くで枯れ枝を集めて持ち帰り、焚き火にする。


高価な魔道具は料理用に短時間だけ使い、夕食にした。


いつも通り変わり映えのない、パンとスープだが、リーは満足である。


(使う水にも神力が篭ってるせいかな)


シューゴの料理にはリーを満たす何かがあった。



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