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神力使いの収集屋  作者: さつき けい
第七章 王都の生活

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107/137

107・二人連れ


 元傭兵のエリエはチエルの護衛として、初めてアダステル国の王都にやって来た。


「ほお、意外と人が多いな」


高い防御壁に囲まれた都。


気候は穏やかで暖かく、王都周辺は豊かな農地と放牧場がある一方で、王城は高い崖を背後にした堅牢な場所にあった。




 アダステル国の南に位置する大国の出身であるエリエは、正直にいえばこの国をあまり良く思っていない。


周辺国の中で、ここだけが先の戦争に巻き込まれなかったからだ。


軍や傭兵を貸し出す支援だけで戦後に領地を広げた。


戦場となった国からは妬まれて当然である。


エリエの一族の多くもまた先の戦争で亡くなったり、負傷するなど被害に遭っていた。


無傷なアダステル国を好きになれなかったのは仕方がない。


 その上、国の規模からいえばエリエの母国の方が大きく、様々な種族が住んでいる。


それに比べるとアダステルは国土も小さく、人族が中心で、しかも男性社会で女性の地位が低い。


アヅの街で一年ほど暮らしたが、古臭いという印象を持った。


王都もあまり期待していなかったが、人の多さには驚いている。




 西門で馬車を降りた。


近くには「王都西職業組合」と「兵士組合」がある。


「馬車で一緒だった方のお話だと、収集屋は東の組合に多いそうよ」


乗り合い馬車の中で知り合った商人の青年から色々と王都の話を聞いた。


チエルは、さっそく人探しを始めようとしている。


「先に宿を取らなくていいのか?」


まだ夕方には早いが、少し休んだほうがいいのではないかとエリエは思う。


兵士である自分は平気だが、チエルは長旅で疲れているはずだ。




 馬車の青年にしつこいくらい大通りにある宿を勧められていたので、エリエはそこに行こうと誘う。


「うーん。 あれはちょっとー」


東に向かって歩き出したチエルは顔を顰めた。


短い間だったが娼館で働いていたというチエルは、男たちの裏の顔をよく知っている。


「特に商人は貴族みたいに裏表が激しいから」


平民でもあまり信用出来ないとため息を吐いた。


「宿を勧めてくるのは、夜になったら誘いに来るつもりだからよ」


二人は並んで歩きながら小声で話す。


「へぇ、そうなのか」


馬車には他の客もいたが、女だけの旅人はチエルたちだけだった。


何かと話し掛けてきたが、そういう下心があってのことらしい。




「でも王都の地理の話は助かったわ」


アヅの街に比べたら、王都は人や建物が多過ぎる。


「西門から真っ直ぐに東門に向かえばいいのよね」


二人は歩いているうちに大きな広場に出た。


西門から東門への通りと、南にある王城から北門へと向かう大通りが交差する地点。


人通りが一番多い場所である。


「すごいねー」


「ああ」


田舎者丸出しの二人は目を瞬く。


しかしあまりジロジロ見られている感じはしない。


皆忙しく、他人に構っている暇などないという感じだった。


ある意味、気楽である。




 なんとか人波を掻き分け、東の通りに出た。


「五階建ての大きな建物だから、すぐ分かるって言ってたね」


「うむ、あれだな」


真っ直ぐな道の先に東門が見え、その通りの南側に並んだ建物の内、一番大きなのが「王都東職業組合」である。


「行きましょう」


チエルは少し興奮しているようだ。


「あいよ」


エリエはおとなしくついて行く。




 大きな正面の扉を開くと、中は外と変わらないくらい混み合っていた。


「まずは受付だね」


壁の案内図を確認し、受付窓口を探す。


「どうやらあっちのようだ」


荷物で手が塞がっているエリエが顎で示す。


頷いたチエルがその方向に歩き出そうとして、立ち止まる。


「え……」


その驚いた顔の先にあるものをエリエが目で追う。




 受付を訪れている人々の中に、ひとりだけ頭一つ分、背の高い男が立っていた。


向こうもこちらを見て驚いた表情をしている。


「シューゴ、さん」


「えっ、あれが?」


エリエはチエルからしか探し人の話を聞いたことがない。


人混みにいても、背が高いので見つけ易いこと。


髪は稾色、細い垂れ目でいつも笑っている、と。


しかし前方にいる男は前髪が伸びて目が隠れていて、顔はよく分からない。


「確かに背は高いが」


王都なら背の高い人間は少なからずいるだろう。


あれが探し人とは断定出来ない。




「シューゴさん!」


しかし、チエルは走り出してしまった。


周りがザワザワする。


「待て、チエルー」


「アンタ、チエルさんの連れ?」


チエルを引き止めようとしたエリエの耳に男の声がした。


バッと振り返ると、黒髪黒目の若い男がチエルを目で追いながらエリエに話し掛けてくる。


「アヅの街からよく来たな」


その声は呆れと優しさが含まれていた。


「おー、チエルさん、がんばってるねえ」


チエルは、エリエが今まで見たこともない笑顔で、恥じらいながら男に話し掛けている。


「俺たちも行こうか」


黒髪の男はチエルが落として行った荷物をヒョイと拾って歩き出す。




「お前は何者だ」


エリエが用心深く訊ねる。


「あー、すまん。 俺はあの男の相棒だよ。 リーってんだ」


エリエはリーの後を追いながら話し続ける。


「アタシはアヅの街で雇われたチエルの護衛だ」


「そうかい」


リーはニヤリと口元を歪めた。


「おーい、シューゴ。 一旦、外に出よう」


リーは固まって動けないシューゴを小突き、裏口から外へ出る。


エリエたちもその後を追った。



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