102・聞いてはいけない
シューゴたちが控え室に入ると、目ざとく見つけたハツーナが近寄って来た。
「どこへ行ってたのよ」
声を潜め、怒っている風に見えるが心配していたのが分かる。
シューゴの心はホッコリするが、今日はいつものヘラヘラした雰囲気を消し、無表情だ。
「申し訳ありません、ハツーナ神官様。 ある方に呼ばれまして、顔を出してきました」
背の高いシューゴはハツーナを見下ろさないように少し屈む。
顔が近くなって、ハツーナが慌てる。
「そ、そう。 間に合って良かったわ」
その時。
「皆様、お待たせいたしました」
王宮の侍従と騎士が入って来て、移動が開始された。
王宮の庭に面する広間。
かなりの数の貴族とその伴侶が参加している。
開始の合図と共に、宰相が一段高くなっている場所に上がった。
「お集まりの皆様、本日は国の礎となる魔力石の調査隊が無事、戻りましたご報告と感謝の宴でございます」
まずは宴の目的と感謝の言葉を述べる。
そして、今回の調査参加者を壇上に責任者共々上がらせ、順に紹介した。
姫役人と護衛騎士から始まり、シューゴたちは一番最後である。
また「似ている」というヒソヒソ声が聞こえてくるが無視だ。
「どうか、ごゆるりとお過ごしください」
宰相の挨拶が終わる。
「これで用事は終わりましたよね?」
シューゴは東の組合長に訊ねた。
「う、うむ。 まだ早いじゃろ」
「じゃあ、もう少ししたら私は具合が悪くなりますので」
「……分かった」
姿が見えなくなったら、そう言って退席したことにしてもらう。
宴会場の隅で、リーは荷物持ち兄弟と共に料理を堪能していた。
傍に給仕が待機しており、頼めば料理や飲み物を取ってくれる。
「街中で噂になってますよ、東にはすごい新人がいるって」
三人は、丸いテーブルで顔を突き合わせてヒソヒソ話し込んでいる。
「なんで?。 俺たちがやってることはアンタたちとそう変わらないだろ」
リーは酒を飲みながら、改めて兄弟に訊ねる。
「それより、余計なことはしゃべってないだろうな」
ウーウのことは組合長たちにも内緒にしている。
幸い、眠らされていた三人もウーウの姿は見ていない。
「勿論!。 シューゴさんとリーさんは命の恩人ですから」
「分かってるならいい」
それを確かめたくても、あれから宴の準備で忙しく、救助隊の他の者たちには会えていなかった。
「斥候の男はあの女性は見ていませんし、キクマ隊長は口は固いですから」
三人の視線はハツーナを見ている。
「大丈夫だろ。 あれでも神職だしー」
「ですねー」
あははは、と笑い合った。
料理に興味がないシューゴは、一人で庭に降りて行く。
(綺麗だな、さすが王宮だ)
キチンと手入れされた庭を眺める。
時折り見え隠れする人の姿を見ないふりしながら、フラフラと歩いていた。
「な、なにしてるの、こんなとこでー」
どうやらシューゴを追って来たらしいハツーナに声を掛けられる。
「何って、庭を見学しているだけですが?」
滅多に来られない場所だし、どんな植生が見られるか、調べていた。
「そう。 ならいいけど」
シューゴは首を傾げる。
「ハツーナ神官様はどうしてこちらに?」
「わ、私はちょっと息抜きに」
今日はずっと教会の偉い人たちに囲まれていた。
会場を抜け出したくなるのは分かる。
「でも、私と二人では怪しまれますよ。 戻りましょう」
シューゴはハツーナから少し距離を置いて、建物に向かって歩き出す。
「こちらにいたのね」
ルルレーシアがシューゴを見つけて近寄って来た。
部屋で会った時とは違う甘い声である。
シューゴは寒気がした。
「先ほどはどうも」
「あら……お邪魔だったかしら」
ハツーナの存在に気付き、眉を顰める。
「ルルレーシア様。 彼女は迷宮でお世話になった神官様です。 一緒に庭園を拝見して、もう会場に戻るところでした」
シューゴは頭を下げたまま言葉を続ける。
ハツーナも後ろで顔を伏せていた。
「ふうん、ならばシューゴ、わたくしにも庭を案内してもらえないかしら」
シューゴは少しだけ顔を上げる。
「ルルレーシア様、私はこちらに来たのは初めてですので」
案内など出来ないと断る。
「おや、わたくしの相手など出来ぬと?。 やはり、そなたはツァルタークス派なのね」
「は?」
シューゴは不思議そうにルルレーシアを見る。
「申し訳ございません。 ツァルタークス派?、という言葉は初耳ですが?」
シューゴは素直に答えたが、ハツーナは顔付きが変わっていた。
「ご冗談を、ルルレーシア様。 この者は教会に所属しておりませんし、何より『神力使い』ではございません!」
と、大声で主張した。
(いや、本当になんのことだかー)
シューゴが困っていると、ルルレーシアの護衛騎士カーマルーが駆け付けて来た。
「姫様、このような所で何をなさっているのですか!」
そしてルルレーシアが怒っている姿を見て、シューゴに対して剣を抜いた。
「貴様、姫様に対して無礼を働いたな!」
いきなり剣を降り下そうとしたところに、影が入る。
カキンッ
剣と剣がぶつかる音がした。
「リー」
「何してんだ、シューゴ。 騎士さん、あんたも王宮の騎士にしては気が短か過ぎる。 ちゃんと事情を訊けよ」
周りに人々が集まり始めた。
「何かございましたか?」
野次馬の中からトォモルが声を掛けてきた。




