100・謁見の間
一番先に出て行ったのは教会幹部たちだ。
神官服の老人たちで、シューゴを見ては眉を顰めていた。
その後ろに、ハツーナ神官を連れてトォモル警備隊長がついて行く。
国軍の斥候兵は上司らしい軍人と出て行った。
兵士組合長の壮年の男性と雇兵キクマが出て行き、西の組合長と荷物持ち兄弟が続く。
東の組合長とシューゴたちは一番最後に控えの部屋を出る。
謁見の間は、それほど広い部屋ではなかった。
周りにいるのも警備の騎士たちと、僅かな役人らしき男女が十名程度。
部屋の中央の絨毯の上に調査隊員と救助隊員だけが残り、付き添いで来た組織の偉い人たちは左右に別れる。
絨毯の上の平民たちは二列になり、打ち合わせ通りに片膝をついて顔を伏せた。
前列に救助責任者のキクマ、その横にハツーナが並ぶ。
その隣りは斥候兵の軍人だが、経験があるのか慣れている感じがした。
シューゴはリーと共に後列にいるので、前にいる者たちの緊張している姿がよく見える。
(ハツーナさん、震えてるな)
後列の隣りには荷物持ち兄弟が並んでいるが、何故かこちらをチラチラと見てくる。
(何かあったか?)
迷宮でのことは誰にも話さないと約束しているが、彼らの雇い主は西の組合長であり、調査隊だ。
なるべくなら邪魔臭いことに巻き込まれたくはないが、彼らに辛い思いをさせるのも違う気がする。
誰かに話したとしても、シューゴには責める気はなかった。
やがて国王が謁見の間に入って来る。
「皆、顔を上げてくれ」
その柔らかい声に、シューゴは思っていたより親しみ易い人物だなと感じる。
「此度の地下迷宮での調査、大義であった」
公的には救助自体がなかったことにされたらしい。
シューゴたちも調査隊員ということになった。
そっと顔を上げると、王冠を被った男性は意外と若い。
マスオルと同年代くらいかなと思って見ていたら、目が合った。
(は?、なんで)
シューゴはすぐに顔を伏せる。
玉座に座る国王の横で、担当の文官が声を上げた。
「地下迷宮探索の功績を讃え、褒賞を授与する。 名前を呼ばれた者から一歩前へ」
一人ずつ名前を呼ばれて立ち上がり、国王から慰労の言葉を掛けられる。
そして、文官から褒賞内容が書かれた目録を受け取り、次の部屋へと案内されて出て行く。
打ち合わせでは、次の部屋にいる役人から報酬を受け取ることになっているが、この後、宴があるため組合長らに預ける形になる。
なので、次の部屋に行く時には付き添い人も一緒に退室して行った。
シューゴたちの番になる。
「雑用係だそうだな……ご苦労だった」
「お初にお目に掛かります。 陛下よりお言葉を賜り、光栄でございます」
シューゴとリーは二人で最上級の礼を取る。
その後、なかなか退室の合図がなく、沈黙が続いた。
「シューゴとかいったか。 其方、親はなんの仕事をしておる」
(えっ)
シューゴは狼狽えるが、冷静を装う。
「代々農民の家系でございます」
何故、そんなことを訊ねるのかと、困惑の表情で返す。
「そうか」
しかし、それでもまだ解放されない。
「誰かに似ておると言われたことはないか」
「は?」
つい声が漏れて、周りの者たちから睨まれた。
「陛下、そろそろお時間でございます」
傍にいた文官が国王を諌める。
ようやく次の部屋へと移動になった。
そこで文官から渡されたものを、組合長に目録と突き合わせて確認してもらう。
上等な布袋に入った硬貨は今まで見たものよりずっと重く、輝きも違っていた。
価値も相当違うのだろう。
シューゴたちは他の者たち同様、組合長に預ける。
目録だけを受け取り、後日、組合で引き渡してもらうのだ。
次に文官から、各自の服に紋章入りのバッヂのようなものを付けられた。
「これは通用門を通ることが出来る資格証になる」
呼び出しがあれば応じろということだ。
シューゴは苦笑してしまうが、睨まれたので慌てて感謝の礼を取った。
それが終わると、また別の部屋に案内される。
しかし、東の組合長である老人は案内された控え室で首を傾げていた。
シューゴたちがいない。
謁見の間で一緒だった調査隊や救助隊、その他の関係者は揃っている。
荷物持ち兄弟が老人に話し掛けた。
「あの、シューゴさんたちは?」
「それはわしが訊きたい」
二人は違う部屋へ連れて行かれたのか。
老人は顔を顰める。
(国王陛下は何故、シューゴにあのような質問をしたのか)
あの時、謁見の間に残っていたのはシューゴとリー、そして東の組合長だけだった。
「お飲み物はいかがでしょうか」
控え室にいる王宮の給仕たちが飲み物を勧めてくる。
「ありがとう」
荷物持ち兄弟と共に、西の組合長の近くの席に座ると、誰かが近寄って来た。
「失礼、東組合の方」
「これは中央教会神官長殿」
立ち上がり、軽く挨拶を交わす。
「ところで、あの背の高い若者はどこから連れて来たのです?」
教会までがシューゴに興味を示してきた。
「確かアヅの街からです。 家は代々農民だそうで」
東の組合長がそう答えると神官長は興味を失ったようだ。
「そうか」と言って離れて行く。
その後ろ姿を見送り、老人はため息を吐く。
「教会が何の用でしょう?」
荷物持ち兄弟が首を傾げる。
「さあな」
老人は何事もなかったかのように、出された酒のグラスを傾けた。




