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1・街の収集屋

新規連載となります

初めての方は、はじめまして

たまに来てくださる方には、お久しぶりです

皆様、しばらくの間、お付き合いくださいませ


 まだ陽の高い草原の中。


わら色の髪をした細身の男が草むらから立ち上がる。


「リー、そっちはどうだ?」


黒髪に筋肉質な体の男が手に持った大きな袋を持ち上げて見せる。


「もうそろそろいっぱいかな。 そっちはどうだ?、シューゴ」


「こっちも十分だよ。 じゃあ、街に戻るか」


二人の若者は連れ立って草原を歩き出す。


向かう方角のその先には、高い防御壁に囲まれた街があった。




 この世界の職業の一つに『収集屋』というものがある。


依頼があれば、街の外の地下、山、森などで採集して持ち帰るのが仕事だ。


防御壁の外は危険を伴う場合もあるが、良い物件に当たればかなりの収入になることもある。


「ただいま戻りましたー」


二人は街の門番に挨拶をする。


「よお、シューゴにリー。 成果はどうだい」


「ワッハッハッ、この通りよ!」


リーは元気に布袋を掲げて門を潜る。


「サッサと納品しようぜ」


「ああ」


二人は近くにある二階建の石造りの建物に入って行った。




 アヅの街は、この地方では二番目の規模。


街の北にある門を潜ると、そのすぐ近くにある目立つ建物が『職業組合』である。


働く者の味方を謳い、職の無い者に仕事を斡旋する組織だ。


「ナナエさん、戻りましたー」


「はい、お帰りなさい。 二人とも怪我はない?」


まだ若い二人は、いつも優しい職員のおねえさんに可愛がられている。


「はい」「ねえよ」


長身のシューゴは細い垂れ目の優しげな顔を歪めた。


「リー。 ダメだよ、ナナエさんにそんな口きいちゃ」


童顔で小柄なリーは、口は悪いがちゃんとシューゴには従う。


「わーったよ。 すんません、ナナエさん」


この『収集屋』は若い男性の二人組なのである。




 今日も採集したものを納品して報酬金額も、仕事の経験値も半分ずつにしてもらう。

 

「はい、本部の資料に記入しておいたわ。 シューゴはもうすぐ緑ね」


「ありがとうございます」「どもっ」


二人は、手のひらに収まる大きさの青い丈夫な紙を受け取った。


 これは個人がどれだけの仕事をこなしたかを表す職業組合の資格証カード


仕事の終了報告時に職員が内容を確認し、それを組合の資料に記録する。


どの街の職業組合に行っても組合間で情報が共有されているため、資格証さえ見せればそれまで働いた仕事内容が分かるようになっていた。


つまり、身分証明代わりになるのである。




 資格証の色は新人は『青』、昇格すると『緑』、次は『黄』、その次は『赤』となり、最高は『黒』だという。


色分けされているのは、仕事を依頼する場合にどれだけの信用や実力があるかを確認するためだ。


教育を受けられない者や他国から来た言語の違う者にも一目で分かるようになっている。


そして、組合の仕事依頼を張り出した掲示板も色別に分けられていて、掲示板と同じ色の資格証持ちしか受けられない仕組みだ。


まだ新人の『青』である二人は青色の掲示板に貼られている仕事しか受けられない。


しかし職業組合の組合員には、一つの店や同じ雇い主の所でずっと働き続ける者もいれば、二人のように短期の依頼のみを引き受ける者もいる。


組合では、それぞれの性格に合わせた仕事を斡旋していた。


「ありがとうございました」「またなー」


二人は職員に手を振って組合を出た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 五年前、痩せてガリガリの薄汚れた少年がアヅの街にやって来た。


それがシューゴ。


最初の仕事は、組合の建物内にある食堂での皿洗いだった。


「食堂の親父さんが皿洗いがいなくて困っていましたの」


シューゴが街に来たその日のうちに、ナナエが話をつけてくれたのだ。


「しっかり働いて稼げよ」


食堂の店主ホーダツはシューゴを働かせるだけでなく、人並みに体力が付くまで店での食事を無料ただにしてくれた。


「皿洗いをさせるためだ」


あらか様な照れ隠しをする店主に感謝し、シューゴは一生懸命に働いた。




 しかし、二ヶ月後、前任の皿洗いの若者が戻って来る。


「なんだ、おめぇ」


彼は怪我をして二ヶ月の間、休んでいただけだった。


シューゴはさっそく仕事を奪われてしまう。


店主は事情を話し、シューゴに謝罪した。


「アレは恩人の息子なんで辞めさせるわけにはいかないんだ」


食堂では、最初からシューゴは数日保てば良いと思われていたようだ。


 そして店主はナナエとも話し合い、シューゴに新しい仕事を斡旋することになった。


「やりたい仕事はない?」


職員であるナナエはシューゴの気持ちを一番に考えてくれた。


「あの、出来れば」


シューゴは『収集屋』をやってみたいと話した。


 


「今なら親父さんに頂いた給金を元手に装備を整えられます」


シューゴは、心配顔のナナエとホーダツに微笑む。


腕を組んで考え込んでいたホーダツが「ヨシ」と頷いた。


「まだ若いんだ、やってみろ」


「はい」


ナナエも苦い顔でため息を吐く。


「そうですね。 一度、経験してみるのも良いでしょう。 但し、準備はきちんとして下さいね」


そう言ってシューゴに必要な物を書いた紙を渡す。


「色々とありがとうございます」


そうして、シューゴは『収集屋』になった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 シューゴとリーが報酬を手にすると使い道はほぼ決まっている。


「シューゴ、今日は何を買うんだ?」


「そうだな。 まずは仕事用の在庫を補充する。 後は何か便利な道具がないか、雑貨屋を見てくるよ。 リーは?」


「俺は美味い酒と、ふかふかの寝床だ!」


「ああ、いつも通りだね。 じゃあ、また二日後に」


「おう、またな」


二人の収集屋は三日間働き、二日休むを日課にしている。


お互いに自分の目的の場所へ向かって別れた。



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