第五話
この宿屋は酒場も一緒になっていた。その為に休憩がてら食事を摂ることにした。山の上にあるせいか、多少肌寒い気もする。
私は温かいものが食べたいと思い、クリームシチューと果実酒を頼んだ。おにおんぐらたんさんは、名前通りオニオングラタンが好きらしく、オニオングラタンとエールを頼んでいた。このゲームのいい所の一つにメニューが豊富であるというのもある。VRのおかげで料理も五感で楽しめる。
私たちの飲み物と、私のクリームシチューは来た。おにおんぐらたんさんのオニオングラタンはまだである。
(ややこしいな……)
私が、おにおんぐらたんさんの料理が来るまで手を付けないつもりが、おにおんぐらたんさんが気を利かせてくれた。
「まだ来ないみたいなので、先に食べ始めちゃって下さい。せっかくの温かいシチューが冷めちゃいますから」
「じゃあ、お先にいただきますね。おにおんぐらたんさんの料理はグラタンだから、オーブンで焼いて時間がかかっていたりして」
「え? そうなのですか? 時間がかかる料理にしてしまって申し訳ない」
おにおんぐらたんさんは、しゅんとしてしまった。実際の所、オーブンで焼いているかは、私にも分からない。このゲームはまだ始めたての人ばかりで情報があまり出回っていない。しかし、冗談で言ったのに本気で受け止められてしまったので、フォローしておく。
「いや、私もまだこのゲームのこと知らないから冗談で言っただけですよ。気にしないで下さい。VRは仮想を体験して遊ぶのですから、これも楽しみの一つですよ」
「そうなのですね。でも、僕もアニエスさんと一緒に遊べて楽しいですよ」
なんか頬が熱くなってしまう。流石にゲームでそこまでは再現されていないと思うけど。
それにゲームの世界だと相手の性別や容姿すらも分からない。アバターがいかつい筋肉質の牛男でも、現実は違う可能性がある。いや、自分で考えていて何かおかしい気もする。この状況は、現実と違うのは絶対的である。なぜなら現実世界に牛男がいるわけがない。
やっとオニオングラタンが出て来た。おにおんぐらたんさんが食べ始めると、あつっとなった。オニオングラタンという熱いものが好きなのに、猫舌というのがなんか可愛らしく見えた。
おにおんぐらたんさんが、グラタンをフーフーしながら食べているのを微笑ましく思いつつ、地図を見る。どこへ向かうべきか。山岳エリアの《アスロゲス》の上は雪原エリアの《カラドリウス》。そして、右下は火山エリアの《サンアトゼール》。雪原エリアも火山エリアもプレイヤーが選択できるスタート地点である。それならば、思い切って共通エリアの《エルドリス》に向かうべきだろうか?
草原エリアの《エルドリス》に行くには、海底エリアの《ジノニィデア》を越えなければいけない。《ジノニディア》は一面海のエリアで、所々に大小さまざまな島がある。
もしくは、天空エリアの《アルファリル》を経由していくという手もある。しかし、こちらは高くつく。何しろ飛空艇で移動するのだから、船よりもメルがかかる。時間を節約してメルを多く払うか、メルを節約して時間をかけるか。おにおんぐらたんさんが食べ終わったのを見計らい、相談してみる。
「おにおんぐらたんさん。共通エリアの《エルドリス》に向かおうと思うんですけど、どうします?」
「同行させて貰ってもいいですか?」
「もちろんですよ。フレンド登録した仲じゃないですか。私が聞きたかったのは、船で行くか飛空艇で行くかです。船だと時間がかかるけどメルを節約できます。飛空艇だとメルがかかるけど時間を節約できます」
おにおんぐらたんさんが思案している。そしてその考えを口にする。
「飛空艇って魅力的ですけど、船がいいですかね。メルを節約しないと剣士ですから装備代にとっておきたいので」
なるほどと思った。たしかに前衛職をして貰うのだから、装備の更新が発生するであろう。自分が後衛だから、そこまで気が回らなかった。剣士の防具も金属製とかになるし、僧侶が身につけるようなローブよりも高いかもしれない。
「じゃあ、のんびりと船旅を目指すということで」
「はい。お願いします」
港町を目指すことに決定した。




