第98話 待ち受ける相手
これでめでたく先に進める、と思いきや、頭目ネイに対する糾弾が開始された。
「ネイよ! あなたは先ほどの罠に対し、赤子のように泣きわめくばかりであった。このような者を虚空描写者と仰ぐことはできない! あなたを追放する!」
「なんだと、花壇監視人ヌミトルよ! 貴様こそ無力にも寝転び嘆くのみであったぞ! そちらがその気ならば――」
付き合うのも面倒なので、ブロウは単独で先に進むことにした。もともとロクに連携もとれておらず、まだ一人のほうが身軽でいいと判断したのだ。後ろから、今や信奉者と化した徒党たちがゾロゾロと付いてくる。特に何を言うでもなく、そのままにしておいた。
目的は〈黄昏の宝珠〉を手に入れ、それを結節点として異世界の自分との完全な融合を果たすことだ。そうすれば更なる力を手に入れられるし、狩るべき相手を知ることができる。
本の記述によれば、この先では双角竜と交戦することになるはずだ。石像の竜とは違い、その喉は無防備ではない。だが、倒す方法はいくらでもある。南塔卿ラディスラウスによって雷で心臓を停止させてもらっても良いし、ナシラの悪魔に任せる手もある。一旦戦闘が始まれば、アーマイゼもまともに戦ってくれるはずだ。
しかし、回廊を抜けて竜が待つはずの一室に辿り着くと、既に双角の怪物は亡き者になっていた。代わりに、未だ血に濡れた刃を持つ怪物が待ち構えていたのである。
「来たな、我らが敵対者よ! 甘言に乗り、断片に滑り込むとは笑止。積年の恨みをここで果たしてくれよう!」
それは〈菜園の魔女〉の依頼で訪れた迷宮で邂逅した、四腕の石像戦士だった。それぞれの腕に曲刀を持っており、侵入者たちに対して問答無用でそれを振り下ろした。
周囲にいた信奉者が悲鳴を上げて吹き飛ばされる。石像は積年の恨み、と言った。身に覚えがないが、異世界の自分のことだろう、と回避しながらブロウは推測する。そして、そちらと融合しつつある今、自分を屠れば、諸共に仇敵を抹消できるか、何らかの悪影響を及ぼすことができると狙ったのだろう。
誘い込まれた形ではあるが、ブロウは妙な高揚を覚えた。
異世界の自分は何かを狩っていた。その理由が、血を飲むためであると今はっきり分かったからだ。眼前の石像にはモデルがいる。自らの分身としてこれを操っているのは、同形の悪魔だ。
密林に潜む巨大なそいつらを狩り、血を啜ってやろう。そのためには、この石のまがい物を片付ける必要がある。援軍は必要ない。自分は長きに渡り、その悪魔と――〈アスラ〉と戦っていたのだから。




