第97話 剥離室
その後も徒党の紹介が続いたが予想外に多く、数十名の人々が姿を現した。かつてガヴィンやエルナが会った者もいたし、何となく見たことがあるような者、全く見覚えのない者もいた。人族のみならず、魔物や非生物なども混じっていた。彼らの名はネイのファーストネームと同じく、記述が欠けているために単なる雑音のように聞こえたり、微光製造手のように特異的な発音だったりした。彼らは奇怪な役割を持っていたが、異世界ではそうなのか、何らかの不具合なのかは判然としなかった。
ブロウはネイに、これほどの人数が狭い迷宮内に入るのは、機動性の面から望ましくないのでは、と言及したが、彼は、全員大切な仲間なので一人たりとも欠かすことはできない、と反駁した。〈黄昏の宝珠〉が手に入れば後はどうでも良いので、それ以上ブロウは何も言わなかった。
元来、ソラーリオ王国を除くエノーウェン全土の迷宮守りたちは、集団戦術が不得手どころか、連携を取ろうとさえしないきらいがある。ガヴィンが〈痩せ身のアガトン〉らと組んだ即席的な徒党も、闇雲に全員が迷宮へ突入し、ひたすら攻撃を繰り出す雑多なものだったが、此度の集団はそれに輪をかけて稚拙だった。メイヴの他にも酔っ払い、更に火酒を呷る者が何人かいる。武器さえ持たずにやって来て、そこらの石ころを拾う者や、コウモリに魔術を当てようとして外し早くも同士討ちをする者、そこらをキョロキョロと見回し見るからに危なげな者、仲間にスリを働きバレて乱闘となった者など、探索者としてあるまじき体たらくであった。
頭目のネイは「大切な仲間」たちの惨状を見て見ぬふりをし、大股で歩んでいく。背後では蜘蛛のような多脚型の自動機械、苦汁攪拌者ボードウィンが怪光線を発し、隣にいた探索者二名が頭部に穴を開けられ絶命した。そのままにしておくのもどうかと思い、ブロウは荷車に二名の死体を乗せて運搬する。
やがて、突き当りにある一室に全員がなだれ込んだ。広めの部屋であり、竜やグリフィンなど様々な魔物の石像が並んでいる。だが、突如として入り口が閉じ、それを見た途端、ネイが叫んだ。
「いかん! これは剥離室だ!」
その言葉を聞いた団員たちは恐慌をきたし、滂沱の涙を流し、その場に倒れ、子供のように手足をバタつかせた。絶叫、嘔吐、失禁さえする者もいた。
ブロウは唖然とし、隣にいたアガトンを見るが、彼は肩を竦めるだけだった。しかたなくネイに、まずは冷静になり、ここから脱出するための仕掛けがないか調べようではないか、と提案する。だが彼は、もう出られない、このまま全員■■■異体へ変異するのだ、と泣きながら叫んだ。詳細は分からないが、魔物か何かに変えられてしまう罠らしい。中には剣を取り出し自決しようとしている者も出始め、メイヴが「そんないきなりやる奴がいるかい! まずは身を清め、神々への祈りを述べてからだよ!」とヴェント式の作法を教示しようとしている。
その時、あることを思い出したブロウが、目の前にある竜の石像に近づき、その喉に触った。どうやら鱗の一枚がスイッチになっていたらしく、入って来た入り口が開き、同時に先へ進むための隠し通路も開通する。一通り調べるつもりだったが、ラマスーの予言のおかげで手間が省けた。ネイに、これで先に進める、と告げると、皆が呆然としてブロウを見ている。
そして、今度は喜びのために再び団員たちは号泣し、ブロウにすがり付き、貴方こそは我らの救世主であります、と感謝し、抱擁したり、靴に口づけしたり、讃えるための即興詩を謳い上げたりする始末であった。




