第93話 目指すべき宝物
〈菜園の魔女〉の領地では青々と作物が茂っている。ずらりと並んだ、アレッシアの背丈をも超える高さの木々、そこには楕円形の実が無数にぶら下がっていた。
迷宮内で育つ野菜や果物は、外で摂れるものよりも味が良く、大きい。成長も早く収穫量も多いため、むしろ多くの人々は迷宮化が及んでいない辺境の農村などを見た場合、よほどの凶作だと思うことだろう。
楕円形の野菜を一杯に納めた籠を傍らに、領民が収穫の合間の休憩をしていた。石を並べた竈で煮込み料理が作られている。畑の様子を見ていたブロウに、壮年のエルフが声をかける。
「あんた、見かけない顔だな。もしかして他所から来たのか?」
迷宮守りの敬礼をし、魔女様の依頼で来た者だ、と告げると、やや怪訝そうな表情だった相手は、態度を軟化させ、昼食を共に食べていかないか、と提案する。ブロウはありがたく頂戴する、と言って近場の岩に腰掛けた。
「魔剣ラップローヴ――その荷車に乗ってるやつか。片方は予備か? 〈黄昏の宝珠〉? 迷宮守りってのは色々なことを知ってるものだな。私は魔女様の加護の元、野菜を作ってるのが一番だよ。そう、役割を全うするのが一番の幸福なんだ」
それに関しては異論はない。問題は、自分の役割が色々と複雑だということだ。昼食を摂ったあと、森のような畑の中を歩きながら、ふとブロウは本をめくった。自分のページを見るためだ。あの石像が言っていたことが、あの場限りのものか、実際に役割として記述されているか確かめたかった。果たして、一回り大きな文字で記された【〈黄昏の宝珠〉の探索者】という一文を発見し、どうやらそういうことらしい、と自覚した。
それがなんであれ、何かを探すということが迷宮守りの本分であるのかも知れない。そしてラップローヴはその手段であり、目的ではないのだ。手段が二振りもあるのだから、きっと見つけ出すことができるだろう。
荷車を引きながら草いきれに包まれた畦道を進み、まだ見ぬ宝物を想像した。〈黄昏の宝珠〉。それはブロウの空想の中で、宝石をはめ込まれた首飾りだった。上部は夕焼けのような橙色、下部にかけて徐々に藍色に変色するという、特異的な代物だ。ふと、熱気が増したような気がした。落日の密林で、巨大な何かが自分を見下ろしている。その恐るべき相手に対し、しかし自分は笑むのだ――そのような光景をブロウは幻視した。
〈狩猟者〉とあの石像は言った。自分はどこかで、狩りをする定めなのだ。




