第90話 迷宮探索
迷宮の石壁には、魔力灯ではなく松明が灯っている。誰かが火の術で毎日点しているのだろう。足元の石畳が沈み込み、壁の穴から矢が飛来した。ラップローヴにて弾き飛ばし、事なきを得た。不死者は痛みや恐怖に対し鈍感になり、不用心となる傾向があるものだが、自分もそうなりつつあるのかも知れない。今一度気を引き締めなければ。
ブロウは迷宮守りとしての己を掘り下げるために、しばらく迷宮に潜ることにした。エルフや吸血鬼であること、フォルディア人であることは自分で選択したのではないが、この役割は自ら選び取ったのだ。
石造りの薄暗い通路で、荷車が邪魔になる場合、これまでと同じくブロウはその場に置いたまま先に進んだ。上に積み重ねた荷物は別の場所に引き寄せても消えはしないので、ともすれば荷物運びが自分の天職かも知れない、と思うようになった。迷宮に潜ったなら、なるべく多くの獲得物を持って出たいのは当然のことだが、もちろん移動の邪魔になる。亜空間に繋がっている魔法具の容器があれば別だが、戦闘や脱出を妨げない程度に制限するしかない。だが、不死の運搬者である自分がいれば、問題は解決だ。
帝国に渡ったら〈夜居〉に加入するのではなく、迷宮潜りとして食って行く手もある。いずれにしろ、〈彼岸のドローレス〉が苦しんでいたようにスゥレの烈日によって東の地は過酷だ。吸血鬼はブロウのような下位の〈ディウォーカー〉であっても、昼間の移動は避け、夜間活動すべきだろうが――
そんなことを考えていると、再び罠が発動し、鎖付きの鉄球が落下して来た。素早く身をかわすが、荷車を坂道の下に滑落させてしまった。何やら悲鳴のようなものが聞こえた気もする。探索者にぶつかったのなら一大事だ。
坂の下に降りると、幸い、数匹のゴブリンが倒れていただけだった。そいつらから魔石を取り出し、いざとなれば荷車を滑り落とすことが、攻撃手段としても使えるな、と頭の片隅に記憶した。
ゴブリンが守っていたらしき部屋に入ると、金箔と宝石で飾り立てられた宝箱が置かれている。もちろん、これまで罠に引っかかって来たこともあり、飛びつくわけにはいかない。アレッシアを、かつて闘技窖で戦った目玉だけの怪物〈オルクス〉に変え、宝箱に向かって突撃させた。ぶつかったとたんにそれは勝手に開き、牙の付いた口を見せる。魔物が擬態していたのだ。オルクスは麻痺の効力を持つ光線を照射し、怪物の動きを封じる。その隙に口内へラップローヴを差し込み、息絶えたところで内部のお宝を取り出した。
何か重要な情報が記されていたらしい本だが、怪物のドス黒い血液で汚れ、まともに読むことができなくなっていた。ブロウはこの失敗から、擬態者の中身は出血させずに取り出すべし、という教訓を学んだ。迷宮守りとして先輩であるガヴィンや〈変容する獣〉の団員たちが「まだまだだな」と笑った気がした。




