第84話 血の監視者ケリブ
少し上の階層へ移り、宿で食事をしていると、ブロウと同じくらい顔色の悪い人間が話しかけて来た。吸血鬼ではなく、改造を受けた人間だった。フォルディアでは建国以来、魔術的改造技術が発達し続けている。それは軍人のみならず、今日では貴族階級のステータスとして中・上層ではありふれたものとなっている。
ケリブと名乗ったこの青年は、吸血鬼を狩る者だった。だがもちろん無辜の民であるブロウを処刑するはずもなく、彼が身に付けている銀の剣とか聖別された杭などは使うつもりのない「伝統衣装」だと思って欲しいと言い、ケリブは微笑んだ。
「市民が吸血目的での犯罪を起こした例など、何十年も発生していないのです。あなたも血を飲もうだなんて夢にも思わないでしょう? だけど〈役割〉というのは非合理で古臭く、現実に即さない、しかしながら従わないわけにはいかない。お分かりですよね? ぼくはあなたを見張るという名目で、しばらく同行しなくてはなりませんが、もちろん犯罪以外の行動について、一切制限するものではありません」
つまりアレッシアがもう一人増えるようなものか、と思っていると、ケリブは護衛や迷宮守りとしての手伝いなどはやってくれるという。歓迎すべきことだ。だが、ブロウがこの階層に来るまでは、他の吸血鬼を監視していたのだろうか。
「そうです、その方は雑貨屋の経営者で、毎日顔を出して世間話をして、監視の任ということになっていました」
吸血鬼を退治する集団は、モーンガルドの〈払暁戦団〉、帝国の〈竜の仔〉など各地に存在するが、この地では実戦経験を積むことはできるのだろうか。
「稀に迷宮から魔物として発生することがあります、そいつらは〈啜り屋〉とか〈蚊〉などと呼ばれる哀れな輩であって、あなたのような真っ当な市民とは完全に別物というわけですが。確かに、実戦経験は乏しいかも知れませんが、それでも奴らに後れを取ることはありませんよ、それがぼくの役割ですからね」
ケリブは吸血鬼として生きる上で気を付けなければならないことを教えてくれた。陽光や聖なる術によるダメージについてだ。ブロウはごく下位の、いわゆる〈ディウォーカー〉と呼ばれる吸血鬼で、挙げられた弱点によっても僅かな不快感くらいしか覚えはしないだろう、ということだった。
「ただし、あなたの体調次第では普段より悪影響が強く出る場合もあります、また、迷宮病によって吸血の浸食が進み、上位吸血鬼へと堕落――あるいは成長、でしょうか――することもあり得ます。
それから、ご存じと思いますがブロウ、あなたが血の儀式によって同族を増やすことは叶わぬでしょう。それもまた、最低でも中位の吸血鬼でなければ不可能なのです。そういう意味でも、あなたが安全な市民であると断言できましょう。
ただし、あなたが堕落を企図したのなら違法・脱法の手段によって、邪悪な方向へ踏み外すことも起こり得ると努々お忘れなきよう。その際には、ぼくや我が同役たちが、古き仕事を再開する羽目になりますからね」




