第83話 耳を長く
「あなたはアルヴィスと同じ転生者らしいけれど、本当なのかしら?」
ティタニアが迷宮公社近くの酒場でそう尋ねた。正確には転生者ではなく、魔剣の前の保有者と記憶を共有しているのだと説明する。
「ああ、表の荷車に積んであった剣? あれ、不用心じゃない?」
盗まれても、いつでも手の中に現れるので問題はない、と答えるとティタニアは、命装みたいに半ば憑いてるということね、と得心した。
その後ブロウは簡単に、自分の前任者たる帝国人の放浪者と、ヴェント人の復讐鬼について話した。
「なかなか面白い体験をしたのね。特にその、本に書き込まれた運命だとか、別の世界の断片が混入するだとかいう話は興味深いわ。それはあなただけじゃなく、色々なところで起きているに違いないわね。この国の役割というのも、異世界から紛れ込んだり、逆に向こうへ消えたり、何もない所から新しく生まれたりしているはずよ」
あるいは、五分前に発生したものを五百年前から存在していると錯覚し、その伝統を有難がっているのかも知れない。例えそうだとしても誇りが生まれるなら、それは間違いなく尊いものだ。
しばらく後、ブロウは上の階層へ向かうことにした。ティタニアや他の顔見知りにも別れを告げ、アルヴィスにも移動することを伝えると彼は「汝の耳が長くあらんことを」と言った――それはエルフに伝わるかなり古臭い言い回しで、賢くあれ、という意味だ。彼が前世において知り、ひょっとすると好んでいたのかも知れなかった。ブロウは一礼し、下層区の公社を後にした。
人里を少し離れると、魔物がうろつく危険な部屋や階層が広がっている。退治人の役割を持つ人々がたまにやって来て数を減らしはするが、迷宮から湧き出る怪物が尽きることはない。それ自体はこの世の理であり、外部への流出さえなければ、問題視する者はいない。
不可解な役割を負う人々とも出会った。ある一室では、恐ろし気な爬虫類の魔物が鎖で拘束されていた。そいつを監視する〈第六類三級魔物監視員〉、一日二回拘束の術をかける〈バルテ式結界型抑留術師〉、他にも怪物や周囲の人々に何かする役割の人々が多数いた。
魔術には様々な方法論があり、同じ結果をもたらすものであっても過程は大いに違う。触媒の種類や詠唱方式、身振りや魔力の質、部屋の環境などで定義づけられる。怪物に対して用いられる術の数々は、それが最も効果的だからではなく、そう定義づけられているから、という理由で選択されている。
彼らに対して、この魔物をいつまで拘束するのか、いずれは応援が来て退治するのか、と尋ねると、なぜそんなことを聞くのか、という怪訝そうな顔になり、
「我らの役目はこいつを拘束し、維持することだ。逃げられたり死なれたりしては困る。役割がなくなってしまうではないか」
ブロウは深海に沈んだ、大型の生き物の死骸を糧に生きる生物群を想起した。この怪物は数世紀に渡り、この部屋で役割を提供し続けているという。死んだり逃げたりする恐れはないようだが、それでも監視し続けなければならないのだった。




