第80話 具眼のアルヴィス
赤ドロとパンで食事をしていた転生者のドヴェルの所へ行き、ブロウは迷宮守りの敬礼をした。相手も同じように返す。そのメダルには星が二つ刻まれていた。
彼は〈具眼のアルヴィス〉と名乗った。メダルの星にはどのような意味があるのかと尋ねると、
「そいつがどれほどの経験を積んでるか、どれほどの実力者かってのをざっくりと示すものさ。〈館主〉はオレたちの力量を知っているが、他の人々はそうじゃないからな。外の迷宮守りも、何級何等だって格付けがされているだろう。それも概ね、形骸化しちまっているがね。まあ、三つ星くらいあれば、どこの兵隊に職務質問されたところでどうってことないし、皆に一目置かれるだろうさ」
アルヴィスは火酒をゆっくりと飲んでいる。ブロウは、今からこいつをいただくつもりだと細長い容器に入った、僅かに灰色に濁った液体を見せる。
「ほう、人造血液って奴か。ご一緒しようじゃないか。新たなる同胞に」
乾杯し、二人は中身を飲み干した。人造血液は、ほぼ無味無臭だった。水にかなり近く、わずかに塩気が感じられる。血液とは程遠く思えたが、飲み干した途端に思考が明瞭になり、力が湧いてくるような感覚があった。
「そいつが何なのかオレは知らないが、吸血鬼が必要とする要素というか概念を、液体にしたものらしい。本当かは分からないがな」
食事を終え、ブロウは最初の探索を始めることにした。導灯に手をかざすと、頭の中に何者かの声が響く。性別も年齢も分からないが、それは明瞭に一つの情報を伝えた。二つ上の階層にいる、作物を荒らす獣の討伐だ。アルヴィスに別れを告げると、荷車を引いて歩き出す。
このフォルディアでは、まっすぐで広い道路がある場所は限られている。自動車に乗ったところで、悪路や段差、ごく狭い道ばかりで到底進めるものではない。乗り物としては鱗馬が優先される。このバランス感覚と持久力に優れた獣は、ひどい道だろうと跳ねるように進んで行く。一方、ブロウが引く荷車もまた、到底この迷宮都市に向いているとは言えなかった。
多少の坂や段差は強引に突破できたが、急な階段や、通路というより隙間というべき、痩せた人物が体を横にしてやっと進めるような狭い道では、荷車を置きっぱなしにして進むしかなかった。
しばらくすると再び、いつの間にかブロウは荷車を引いて歩いている。これを引く必要はないのだが、疲れることもないし、そうするのがごく自然なことに思えた。ラップローヴ二振りの使用者であり、その運搬車として本に定義づけられているからに他ならなかった。




