第8話 変化
ガヴィンに追従しつつヌミトルは手際よく、そこいらに落ちている魔石や木箱に入った野菜などを回収していく。背嚢や鞄も持っていないが、獲得物はどこかに消えていく。異空間に大量の荷物を収納できる魔法具か、あるいは〈獣〉の体内にでも仕舞い込んでいるのだろうか?
魔物から得られる魔石や肉体の一部と並んで、迷宮に自然発生する資源は迷宮守りの主要な収入源だ。エノーウェンじゅうで安く大量に消費される食料〈赤ドロ〉〈人造肉〉〈迷宮芋〉を筆頭に、各種野菜・果物、酒、食器、工芸品、武具、魔法具、貴金属、宝石、生物などを持ち帰り、売り払う。事前に自分で細かく仕分けし、磨いたり洗ったり手入れをし、しかるべき店舗に持っていけば色を付けてもらえるが、大抵の迷宮守りは面倒がって迷宮公社に一括で二束三文で売り払っている。
ヌミトルは、今回の獲得物は山分けしようと言ってくれた。
「我ら〈変容する獣〉と貴公の合同探索というわけだな。貴公が護衛、我が運搬担当だ」
もちろん彼らには護衛など必要ないだろうが、こうした名目で監督担当の上級者が初心者を鍛えるのはありふれたことだった。
『前方にスケルトンが二体。武器は木の棒』少し先行していたマッブが戻って来て報告をした。既にガヴィンの目にも入っている。古びた革鎧と、そこらの枯れ木をへし折ったような棒を装備した動く骸骨だ。魔剣を構え、魔力をもって喚起する。先にふらふらとやって来た一体を、青い光を纏った刃で薙いだ。
すると、今度はヒキガエルではなく、先ほどと同じ低級霊にスケルトンは姿を変えた。刃を返し、再度そいつを斬る。すると再びスケルトンへと戻った。
ガヴィンは魔剣の効果を終了し、光を失った刃で骸骨たちを難なく粉砕する。
『うーん、ヘンテコな効果だね。えっと、最初は低級霊がヒキガエルに。次はスケルトンが低級霊に。それから低級霊がスケルトンに?』
「ふむ、法則性があるようだな。今しばらく試し斬りを続け、確かめようではないか」
その後何度か魔物相手に剣を振るい、どうやら魔剣ラップローヴは「光を纏わせて最後に斬ったもの」に相手を変える効果があるようだと判明した。スケルトンの傷の位置などから、完全に同一個体へ変貌させているようで、しかも斬った時点での体勢そのままに現れるようだ。
『えー、なんか使いづらくない?』
「使い手次第だと言っただろう、マッブよ。まだ検証が必要だが、我らはいくつか使用法を思いついたぞ。例えば、疑似的な〈停滞器〉として用いるとかな」
ヌミトルが口にした魔法具は、時折迷宮で発見される、内部の時間を緩慢にするか、あるいは完全に停止させる容器だ。
『つまり?』
「例えば、迷宮の奥深くに現れる。仕留めた後すぐに劣化してしまう魔物がいたとする。そいつを斬って変化させ、入り口近くに移動した後、別の何かをそいつに変えるのだ」
いい手だが、うっかり街の中でそいつを出現させないように注意しなければならないな、とガヴィンは自戒するように呟いた。