第78話 他者の記憶
フォルディアで身分を決めるのは魔力であるが、そのためにエルフの地位は高くなっている。魔力を多く持つ者が生まれやすいためだが、ブロウのような例外も無数にいるし、人数で見れば母数で勝る人間の方が、高い魔力の持ち主を多く有している。
だが、外国に比較すると、この地では全種族から魔力量の高い人物が生まれやすくなっており、底部の迷宮公社前でブロウが見かけたドヴェルも、杖や魔導書を身に付けており、戦闘に使うのに十分な魔力量を保持していることが伺えた。
ブロウは堂々と公社に入って行く。建前上は、自分がいる部屋の門衛にでも「迷宮守りになるから公社へ行く許可をくれ」と言えば、誰でも移動できる権利を有していることになっている。だが、衛兵たちは見張りの役割を優先するあまり、無下に断りがちだ。一度、食い詰め者が迷宮守りになると言って出ようとするも、乱暴に追い返され、その時の傷がもとで死ぬのを見たことがあった。あたかも公社に辿り着くことも試験の一つであるかのようだ。そしてブロウは、少なくともそのテストには合格した。
「新入りか、吸血鬼の兄さん」
魔法使いのドヴェルが話しかけた。ブロウは頷き、〈館主〉に人生をかけて奉仕したいと真面目な顔で答える。もちろん実際は、国外へ脱出するまでの繋ぎに過ぎない。
ドヴェルは微笑んで、なるほど、と答えた後、
「なあ、ひょっとしてだがお前さん、別の誰かの記憶を持ってるんじゃないのかい。こことは別の場所で生きた、誰かの記憶を」
と、核心を突くことを口にした。ブロウは肯定も否定もせず、なぜそう思うのか、と尋ねる。
「オレもフォルディア人だからな、この国でそれまでの役割を捨てるってのがどういうことかよーく知っている。それはつまり、死ぬのと同じことだ。いかに不遇な役割でもそれを捨てるなんて、よっぽど追い詰められているか、とんでもない勇気がなきゃできない。ある意味、正気を失ってるようなもんだ。だがお前さんは、そこらに散歩でも行くような、下手すりゃむしろ清々しい雰囲気じゃないか」
浮かれていたつもりはないが、この相手には内心を見透かされていたようだ。だが、それに確信を抱いているということは、もしかすると彼も、外部に関係する情報を持っているのだろうか? 尋ねるとあっさりドヴェルは頷く。
「そうだ。オレはフォルディア人のドヴェルであると同時に、バカンに生きたエルフの記憶も持っている。いわゆる転生者って奴だな。そんで、この国がどうも不自由に思えちまって、この役割に就いたってわけだ」




