第77話 迷宮を守る者
フォルディアの各部屋は廊下によって接続されている。どこにも繋がっていない廊下や、隔絶した部屋というのも存在する。ここで言う部屋や廊下とは、人族のサイズに合わせて作られた建物の一部ではなく、迷宮に生み出された巨大なフォルディア王国全土の一部だ。一部屋は最大で、都市一つを内包するだけの大きさであり、廊下は四頭立ての馬車が数台並んで悠々と通行可能な幅と、巨人が屈まずに歩行できるだけの高さを持っている。
ブロウがいた底の一室の外には、真っ暗な廊下が広がっている。魔力灯も松明もなく、吸血鬼でなければこの暗黒に身を竦めただろう。これからどうやって国外へ脱するか。最短距離を行きたい所だが、もちろん複雑に入り組んだ間取りを把握しているわけではない。それに、持ち場を離れて脱走した底這いずりに、この国の全ての民は敵対的な反応を示すだろう。
解決策はあった――新たな役割に就けば良い。すべての役割は持ち場を離れることを許されず、一つの部屋か、せいぜいが一階層しか移動できない。それ以上の移動を許された役割は配達人、王宮直属の使者、朔月の騎士、そして〈迷宮守り〉だ。
フォルディアの迷宮守りは特異的な役割である。あらゆる地位の者が自分から望んでなることができる、たった一つの役割であると同時に、探索のためなら、フォルディア中のあらゆる場所に立ち入る権利を持つ。彼らは王宮から底部まで、ありとあらゆる場所に現れ、何事かを成し去っていく。もちろん、その場所の持ち主が拒否すればそれで終わりなのだが、迷宮守りの探索はフォルディアの管理者である謎めいた存在〈館主〉が直々に命じるものであり、何らかの害――迷宮災害の原因――を取り除くという目的において依頼される。迷宮守りが然るべき説明を怠らなければ、大抵は侵入を許すだろう。
まずは身を潜めたまま進み、登録のために迷宮公社へ向かうべきだ。
この地の公社は、松明を手にしたミノタウロスの像があるという点以外、他国のものとは別物だ。それは〈館主〉という土着神を祀る神殿であり、今の役割を放棄したい者にとっての避難所でもある。役割の放棄とは、今までの自分を永久に捨てるということでもある。一つの階層・部屋から出られはしないが、与えられた役割を全うするのは当然のことであり、尊い生き方だ。それがこの国の民の基本的な人生観であり、迷宮守りを選ぶのはブロウのように外部の生活を知った者か、相当な変わり者だけだ。彼らは人々から一定の尊敬を得ることはできるが、あらゆる部屋や階層、集団に帰属することはできない。〈館主〉のみに仕え、死ぬまで永遠にフォルディアという巨大迷宮をさまようのだ。




