第74話 死体漁りブロウ
ブロウ――それがこの三人目の保有者、底這いずりの吸血鬼の名だった。両親は点灯師と消灯師であり、そこそこの魔力を持ち、中層に住んでいた。フォルディアでは魔術を細かく分類し、各々の適正によって職業を割り当てる。例えば火を起こすという同一の結果をもたらすにしろ、様々な魔術が存在する。ある一点の温度を高めて発火させたり、燃素を生成したり、火の精霊の力を借りたり、燃焼という現象を再現したり。両親は大して人通りのない廊下に朝に灯りを点し、夜に消す役割を負っていた。
ブロウは幼少期は真っ当な教育を施され、やがて数少ない魔力がこれ以上成長しないと判明すると、下層に送られ、死体漁りに割り振られた。その魔力なしの中で見れば、まずまずある方だったので、極力ましな環境の部屋に入れられた。それがこの薄暗い地下空洞だ。初めは死体漁りに最も向いた適性の持ち主こそが、この仕事をやるべきだと思ったものだが、そのような才人たちは上の階層で、もっと重要な魔物の希少部位を相手にしている。
ここも迷宮の一部であり、迷宮病を発症する者は少なくない。ほどなくしてブロウは吸血鬼となったが、ねぐらの割れた鏡をしばらくしてから見るまでは、そのことに気づかなかった。それは彼が低位の吸血鬼であるからで、多少の生命力の強化と暗視の力、血への曖昧な渇望くらいしか変化はなかった。高位の吸血鬼なら怪物のような力を得る代わりに、わずかな太陽光で皮膚が焼かれ、耐えがたい血への渇望で悶え苦しんだだろう。
人族から変異した吸血鬼は他者の血に忌避感を覚えるが、時折それを好む者もいる。言うまでもなく異常者扱いされる存在で、市民登録と歯形の記録を済ませた真っ当な市民吸血鬼は、支給される人造血液を飲んでいる。この底部ではまともな行政のサービスなどないので、飲もうとすればそこらの動物や魔物を仕留めるしかない。
ブロウは自分が吸血鬼になったと知ったとき、仕留めた獣から血を飲んだ。やたらと塩辛く、熱く感じたそれは特にうまいとは思わなかったが、力が湧いてくる気はした。同時に、暗闇を這いずる自分と同じような獣自身の記憶が、僅かに流れ込んで来た。興味深く感じたが、それ以上飲もうとはせず、まして人族の喉笛にかぶり付き血を啜るなど、考えただけで吐き気がしたものだ。
モーンガルドにかつていた、貴族を自称する吸血鬼たちからすれば、見るに堪えぬ半端者ということになるだろう。だが、払暁の戦士たちに敗れた彼らは、今や自分と同じく地下迷宮の底で隠れ潜んでいるそうだ。
ここから外に出て、何者かの血を飲めばどんな気分になるだろうか。エルナは奇妙にも仇討ちを通して、ヴェント人としての自覚と誇りを手にした。フォルディア人としての誇りなど持てそうにないが、吸血鬼としての楽しみってのを一つは味わえるだろうか。




