第72話 轍
不完全燃焼ではあるが、復讐は果たされた。エルナは、復讐者から復讐達成者へとその定義を変化させた。
「エルナ、お前はもう自由だ。復讐からは解き放たれた。どこへでも行くといい、オレもそうする」
そのようにします、とエルナは答える。ユルゲンの写し身は歩き始め、数歩で止まり、振り返る。
「ああ、言い忘れたが、カトリネルエの奴と会っただろう。奴の立場も、オレたちにとって他人事じゃないってことを肝に銘じておいたほうがいいぜ。この九人がくたばり、お前の復讐は成ったが――オレやお前が、誰かのとっての九人中の一人でないって保証はないんだからな」
そう告げ、歩き出そうとしたところで銃声が、朝の通りに響き渡った。ユルゲンの姿をした肉体が崩れ落ち、頭から血を流す。それを気にも留めずに人々が行きかう中、呆気にとられるエルナは思考を巡らせる。
今しがた彼が言ったように、九人の関係者が復讐をしに来たのだろうか。いや、この死すら、父が仕組んだことなのではないか。誰かに向けた欺瞞、あるいは、この自分に対する何らかの策略なのか。
再びの銃声が思考を遮った。エルナは頭を撃ち抜かれ、しかしすぐさま傷は消える。ラップローヴを手に、狙撃者のいる方向へ駆けていく。報復をしなければならない、それははっきりしている。父の、ではない、自らが受けた傷に対する報復だ。これから先、自分が手にかけた相手のために復讐者に狙われようとも、それをすべて退けてやろう。
本に、運命にそう定められたからではなく、自分の中のヴェント人の血がそうするべきだと叫んでいる。本に書かれていなくても、この剣の使用者たる限り。
第八聖堂のエルネスティーネは、そうして次なる戦いのために】
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彼女のページはそこで終わっていた。ガヴィンと同じく、そこから先も物語は続いたのだろうが、この部分でラップローヴは満足したのだろう。復讐という常ならぬ関係性のやり取りを通じて、持ち主たる資格者を完成へ近づけようという剣の試み。それはしかし、どうやらまだ終わっていないようだ。なぜなら自分は――
荷車に積まれた荷物。それは二振りの魔剣ラップローヴだった。二本持てば威力も倍だ、などと言いたいのだろうか? とはいえこれは降ってわいた贈り物だ。しかも決して失うことはない。エルナが復讐をやめられなかったように。異世界の英雄アレッシアが、どこまでも追従するように、双剣の持ち主という定義は不変なのだ。
ならば世界の果てまで、この荷車の轍を引いてやろうじゃないか。そう、わずかな光だけが差し込む、どん底の暗がりで三人目の保有者は笑みを浮かべた。




