第69話 行列
討伐隊の長は、かつて自分の国を滅ぼされたという亡国の王子を名乗る人物で、悪鬼のごときカトリネルエ・レッカーマウルに裁きを下すという意思を声高に雑木林に響かせた。彼の演説のうまさは、実際に人を導く才を持って生まれ、そうするための教育を長く受けたことを思わせる。復讐者たちは熱狂した。武器を掲げ、森林公園を出て市街地を突き進んでいく。確かに熱狂はあったが他には何もないために、その行進はちぐはくで、王子の導きに従ってただ進んでいくだけだ。
何かの祝祭と勘違いした通行人、酒場から出て来た酔っ払い、楽隊などが混じって賑やかになり、行列は進んでいく。エルナは故郷に伝わる、ネズミを率いて川で溺れさせる笛吹きの昔話を思い出した。このまま全員、川で溺死したほうがさっぱりして良いかも知れない、などということを考えつつ、行列の末尾付近を進んでいくのだ。
「ねえ、お前さん、この行列が何か知っているかい?」
隣にいた、とんがり帽子の魔女らしき少女が話しかける。エルナは、知らない、何か貰えるんじゃないか、と適当なことを答えた。復讐の暗さは本人のみが味わうべきだ。
「そりゃいいや、あたしは魔女見習いやってて、毎日ヤギの乳絞りばっかりなんだよ。たまにはこういう息抜きでもないと、やってらんないさね」
ヤギの乳絞り、まるでガヴィンが会った魔女見習いナシラみたいだ。同じ流派なのだろうか。そう思って、もしかして師匠は帝国人なのか、と尋ねると、
「ん? そうだよ、変な教育方針でしょ? うちの師匠ときたら、あたしは酪農家じゃないってのに。あ、あたしはグリゼルダっていうんだ、あんたは?」
そう聞かれてエルナは名乗りつつ、少し驚いていた。この人物はナシラの師匠だった老婆の若いころだろうか? いや、単に二人とも、同じ流派の偉人にあやかって付けたというだけかも知れない。だが、自分の主観的な領域において、異なる本の異なるページが混入し、時間や空間すら当てにならない現象が起きても、何も驚くべきことはない。
エルナはアレッシアを先代の使用者たる大柄な獣人――ガヴィン・ラウ・ワーディに変身させ、言った。グリゼルダ、もしこの先あなたがこのような人物と出会い、時間があったら少しばかり魔術を教えて欲しい。弟子に教えさせるのでもいいから。
「ええ? 誰だいこの人? あたしは教えるほどの技術もないよ?」
「いや、この先あなたは、立派な魔女になるだろう」ガヴィンが外見とは似つかわしくない、優し気な声で言った。「おれは前に、ある魔女に助けられた。あなたも将来、人を助けるような素晴らしい人になれることを、勝手ながら望んでいる。いや、突然こんなことを言われても困ると思うが――」
「うん、分かったよ」グリゼルダが頷いて言った。「確かに言われてみると、あんたみたいな人と将来出会うような気がする、たぶんね。そのとき出来の悪い弟子でもいたら、そいつの修行も兼ねてちょっとした指導を行っても良い。おっと、そうと決まったら、乳絞りに戻らないと、あんたが言うような立派な魔女になれるようにね」
グリゼルダは手を振って行列を離れて行った。ガヴィンは既にアレッシアに戻り、人混みに紛れている。本当の祝祭かのように人々は笑い、楽隊の笛の音が鳴り響き、花弁が舞っている。




