第66話 モーンガルド王都リニィ
リニィ外郭部の駅では通勤客が厭世的な顔で、サンドイッチやホットドッグなどを売店で買ってコーヒーとか紅茶で流し込みながら足早に歩いている。背広姿の人が大半で、作業服や軽鎧、旅装や着の身着のままという感じの人も混じっている。誰もが今日一日の仕事にうんざりしている。エルナもまた同じだが、表情には出さない。
人が多すぎるので、近くのベンチに腰掛けて少しばかり待った。通勤客が少なくなったころ、隣に一人のエルフが腰掛けた。この種族のパブリック・イメージ通りの、しかつめらしく高慢そうな顔をした、痩せた青年だ。エルナは、壁に貼り付けてあったカトリネルエの手配書を指して、この人を知っているか、と尋ねる。
「何やら恨みを買っているようだな。わたしには関係のないことだ。極悪人というなら、警備隊に任せれば良い」
エルフの左目はなく、暗い穴があるだけだった。そこから突然、蟲が出てきて彼の顔を這い歩く。アレッシアと同じく、その異様な存在はすぐに気にならなくなった。
「いいか余所者、王都は最低の場所だ。頭のイカれた貧乏人ばかりのな。そいつらはイカれてるから更に貧しくなり、貧しいから更にイカれていく。お前がそいつらと同類だとしても、ここじゃない場所で苦しむほうが多少は洒落た生活を楽しめるぞ。どっちにしろ、わたしには関係ないことだがな。さて、もう行くがいい」
蟲はエルフの左目に戻り、見えなくなった。エルナは立ち上がり、歩いていく。
リニィは高楼が立ち並んでいたが、ガヴィンだったときに足を踏み入れたシヴ=イルヴァよりは空気が清浄で、牧歌的とさえ言えた。人々が無気力そうだという点はモーンガルドの他の都市と同じだった。
カトリネルエの手配書はあらゆる場所に貼られている。ヴェントの騎士大将だった彼女が、この地でどのような無法を犯したのだろうか。
高楼の隙間の路地で、ちょっとした人だかりができている。演説をしている人物の声が聞こえてくる。近づくと、それもカトリネルエへの憎悪を抱いた人物が、同志を募るためにしていることだった。エルナは、自分に先立って誰かが復讐を遂げてしまうのではないかと懸念したが、少し考えて、それもまた達成という扱いでいいだろうと判断した。アーマイゼは自滅したし、南塔卿は雨に打たれて死んだ――エルナが本を改竄したためではあったが――今はとにかく、カトリネルエの場所と生死を確認したい。




