第65話 反改竄主義者
試してみたところアレッシアは問題なく変化させることができ、しばらくすると元に戻った。メイヴに変えて話を聞いたところ、自分の中に砕け散った太陽が入っているような壮大な違和感があるが、ひとまず問題はないとのことだ。本の記載によると彼女は、永滅剣某という魔剣を持っているが、それで戦ってくれないのかと尋ねると、腰にある布と鎖でがんじがらめになったそれを指し、
「この魔剣は世界とともに一度砕け、崩壊そのものを内包している。ひとたび抜けば決して消えぬ痕跡を残すだろう。二度と使わぬと、我が救いし世界に誓ったのだ」
じゃあ素手でもいいから助力してくれないだろうか、もちろん復讐は助太刀なしでやり遂げるが、自分の後にラップローヴの使用者が現れたら、その人物を助けたりということは。
「ならぬ。わたしは傍観者。貴公が世界を書き換えたことに対する代償なのだ」
アレッシアの言は、自らを規定する本の記述に基づくものなのだろうが、その口調は明確に非難が籠められている。彼女がその身を捧げることになった世界の破砕――それを引き起こした何者かと、代償を払ってはいるが己のために改竄を行ったエルナに共通点を見出したらしかった。傍観者とはいえ、あまり刺激して怒らせるとまずそうなので、それ以上は助力を願わなかった。
いったん気にするのをやめると、まさしく風景のようにアレッシアは気にならなくなった。街道をすれ違う人々も、彼女をぎょっとしたように見つめて呆気にとられるが、やがて何事もなかったかのように立ち去っていく。
エルナはやがてたどり着いた宿場町から鉄道に乗り、王都リニィを目指した。南東卿の記載の中に、そこに首謀者が滞在しているという情報があったからだ。列車内には、妙なものがあった。賞金首の手配書のようだったが、それは官吏や賞金稼ぎギルドが発行したものではなく、個人が特定の相手を中傷するために貼っている、いわゆる怪文書だった。
そこに書かれた名はエルナの知っているもので、標的の一人だった。肖像画にあるのは不遜な表情をした、黒髪の騎士だ。
「カトリネルエ・レッカーマウル、非道なる殺戮者」
エルナのみならず、多くの復讐者が憎しみを籠めて、彼女を探している。




