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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
2:Ernestine of Eighth Basilica
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第64話 廃英傑アレッシア

 エルナは老剣士と雷獣の、まさしく嵐のごとき攻撃をその身に受けつつ、ラップローヴの本に己の血と灰で文字を書く。ページは一瞬で燃え、エルナも骸と化すが書き込んだ文字は消えない。凄まじい雷光で視力は失われているが、一文字ずつ、ラディスラウスのページに情報を書き込んでいった。書き終えたところで老剣士が苦しみ始める。


「くっ、この儂を退けるとは――その力、雷雲を晴らす風となろう。そなたの未来に晴空あれ」


 祝福らしき言葉とともに、彼は剣を落とし、倒れた。雷獣たちも消えて黒雲は晴れ、焼け焦げ、抉れた地面のみが激戦の痕跡を残している。


【雨に打たれると死ぬ】という一文を書き込まれたことで、ラディスラウスは倒された。だが、問題はこれからだ。神に祝福されし強大な剣士を改竄したことで、何らかの反動がある。エルナにも何かが書き込まれるだろう。


 自分のページを開いて記述を確認しようとしたところで、雨上がりの空を背景に、見知らぬ人物が立っていることに気づいた。


 あまりに異質だった。今しがた退けた南塔卿を始めとして、強大な存在とは何度も対峙してきたが、そのどれとも異なっている。


 人間の女性に見えたが、これまでに見た誰よりも背が高かった。大柄なガヴィンをも余裕で見下ろす巨躯で、それを重厚な鎧が包んでいる。厳めしい兜は引きちぎられたように半分欠損し、そこから炎のように真っ赤な髪と、危うさすら感じるほどの美貌が覗いている。


 強烈な存在感であったが、妙なことにエルナはすぐに気にならなくなった。まるでそこいらの、何の変哲もない風景のように思えた。とはいえ、この人物が誰なのかを明らかにしなければならない。


 本を読むのも良いが、本人に尋ねることにした。あなたは誰か、と問われ、無言で腕組みをしていた異質なる人物は答える。


「我が名はアレッシア、廃されし英傑、砕かれし世界がための贄」


 あまり具体的でない説明だったので、エルナは本を開いた。己のページには【常に周囲に廃英傑アレッシアが存在する】という一文が加わっていた。その後に、アレッシアのページがあったのだが、大部分は焼け焦げて読めなくなっている。南塔卿の攻撃が強力すぎて、修復できなかったのだろうか。それとも、この欠落もアレッシアの一部なのだろうか。


 残された情報から分かったのは、彼女はどこぞの異世界の住民で、破砕された世界を繋ぎとめるために人柱として志願した十五人の英雄の一人、ということだった。彼女たちはしかし後世には賛美されることもなく、むしろ世界を破壊した巨悪として貶められ、伝説となってからは悪役として語られているらしい。


 どうやら彼女はどこかの世界そのものの一部であり、不滅なる存在らしい。今後、常に近くに存在するという呪いじみた性質だが、ラップローヴで変身させる元の素材として有用なのではないかとエルナは思いつく。だが、さすがに本人の了解を取らなければならない。


「構わぬ。わたしを素材として使うが良い、エルネスティーネよ。ヒキガエルや魔物になろうとも、我が根源が消えることがない。これよりわたしは貴公の永久なる傍観者とならん」

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