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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
2:Ernestine of Eighth Basilica
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第59話 鬼火斬り

「まあそういうことよ、お前さんは根っからの復讐者。魚が泳ぎ方を忘れるなんざ、ありえんからなぁ、ガハハハ」


 と、エールを呷っていた〈鬼火斬り〉が大笑した。エルナも頷き、あなたが酒をやめるようなものだ、と返す。


「おお怖い。そんなことになってみろ、地獄が凍り付いちまうわい!」


 違いない。ドヴェルってやつはまったく――と言いかけて、エルナはこの人物を全く知らないということに気づいた。どうやら外部から混入したようだ。関係性を調べるために探りを入れてみよう。


 我らが初めて出会ったのはいつのことだっただろうか。


「おいおい、ソーダ水しか飲んどらんくせに、忘れちまったのかよ。ワシらは同じ〈風雲連〉の一員だってのに水くさいぜ。なあ〈鬼火斬り〉」


「まったくです。この我らの絆は、どれほどのことがあっても赤い翼の破滅などに呑まれはしません」


 〈鬼火斬り〉という同じ名を持つ人間の少女がドヴェルの方の〈鬼火斬り〉に向かって言った。それは、草むした巨人の所で歌を歌いエルナを追いかけた、あの意味ありげな人物だった。


「〈鬼火斬り〉、あなたもそう思うでしょう、この素晴らしき絆は――」


 少女が顔を横に向けて、どこかで見たような老爺に言った。かつて会ったはずだが思い出せない。ガヴィンの記憶で見たような気がする。周囲には同じような、うっすらと記憶に残っている人々が何人もいて、そいつらは全員、互いに〈鬼火斬り〉と呼び合っているのだ。迷宮守りらしき者が大半だが、正規の軍人や都市の警備兵らしいのもいる、商人や学生、物乞い、貴族、魔物も混じっている。


 そうして周囲を見回していると、どこからか鬼火のにおいが漂ってくる。名前をまだ付けられていない魔物の気配。もしかすると、それは〈ナール〉だろうか。奴らは〈吠える(スナール)〉に似ているが、ナールは吠えない。ただそいつは確かに、動詞(・・)として用いることもできる。〈土くれ(マール)〉や〈密告者(ナーク)〉にも似ていて、その性質を持っている。単なる燃えていないナールならまだ討伐は容易だが、燃えているナールや、さっきまでは燃えていたが今は燃えていないナールやウィックドリックも倒さなければならない。場合によっては燃えているウィックドリックも。この恐るべき魔獣を認識し、倒すことが出来る退治屋はいるだろうか。民家の花壇や路地裏、誰かの言葉の中や脳裏、辞書や公文書に隠れ潜んでいるナールを狩ることができる者は。


 最初の迷宮守りは地下牢(ダンジョン)の看守だった。ある時、そこが迷宮と化し一体のゴブリンが出現した。かくして看守(ダンジョナー)は迷宮守りとなり、最初の探索(クエスト)が始まった。その看守もまた、このような気分だったろうか。困惑と恐怖、そして倒さなければならない相手を見据える決意――ああそうだ、自分こそ〈鬼火斬り〉、ナール退治人なのだ。


 エルナがそう考えていた時、指に痛みを感じた。血が滴っている。ラップローヴが変化した本のページによって、指先がわずかに切れていた。

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