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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
2:Ernestine of Eighth Basilica
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第58話 乱丁

 それからエルナは一週間くらいルークにいたはずだ。あるいは、一か月くらい。まだ復讐を続けるつもりがあるのか、もうないのか。まだルークにいるのか、出たのか。周囲の様子はどうか。今何時か。それらが判然としない。


 ルークの疑わしい風土病がエルナを冒したのだろうか。それとも、他の要因か。やる気があまりにも低くなり過ぎたからか。〈夢幻誘引体〉と同じく、敵の攻撃なのだろうか。分からない。


 困ったときは本を見れば良いのだ。そうして開くと、妙なことになっていた。エルナのページに、フォントの異なる別の数ページが差しはさまれており、おまけに手書きで書き加えられた部分も多数ある。ガヴィンの時にも発生したように、異なる世界のエルナの情報が流れ込んだのだろうか。


【鬼火のにおいがする、それはもう鬼火だ。今は夕暮れで空が青くて鬼火のにおいがしている。耳の長いナールと人型のナールと動詞のナール、それからウィックドリックすらいる。鬼火のにおいがしているからである。それは柑橘系もしくは蜂蜜みたいでもあるし潮のにおいにも似ているが金属が焦げるにおいと盗みの罪と過去形の動詞のにおいである】


 と、延々と、鬼火のにおいがすることを強調する文章が書かれていた。その主人公はナールという魔物に翻弄されながらも帰宅しようとするが、家は砂に埋もれている。主人公は絶望しつつも、家はどこか他所に移されたと考えて旅を続ける。


 読み進めながら、エルナは感動していた。落涙するとか絶叫するとかいったほどではないが。この主人公は、自分だ。嫌々ながらも復讐を遂げようとする自分と、帰宅しようとするこの文章の主体者は、同志ではないだろうか。


 どこかの世界において、自分は鬼火のにおいのする街でさまよっていたのだ。果たして最後はどうなったのかと先に読み進めると、


【毎度、琺瑯壁結社の製品をご利用いただき、まことにありがとうございます。さて、お客様各位におかれましては新商品七十五號について、以前より海辺もしくは湖沼における使用に対する制限令へ対する、激しい困惑と憎悪を向けておられたかと存じますが――】【〈ブランハイムのオベロン〉(宮廷魔術師)とは、孤影の時代に活動したバカン宮廷魔術師、研究者、政治家、劇作家、調理師。〈カルム・セリスのオルテンシア〉の叔父として有名。エボンウィング館長としての名は――】


 と、全然関係ない文章でかき消されていた。鬼火のにおいのする街でさまよっていた主人公はどこへ行ったのだろうか。


 などと一見不安になったようにも見えるが、エルナはその実、凪いだ海のように平静を保っている自分をどこか冷静に見ていた。復讐者でありラップローヴの使い手という定義が揺らいでいないからだ。そうであれば、別に人間をやめてエルフやドヴェル、魔物、エドゥアルトのような汁を滴らせる肉塊になっても別にどうってことはないと自覚していた。

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