第53話 疑わしき地、ルーク
〈逃げ水坂のメイヴ〉、〈歩兵頭ファルケンアウゲ〉、〈颶風のアーマイゼ〉の三者を倒したが、まだ三分の一に過ぎない。やるべき課題が残っているというわずらわしさにエルナは改めてげんなりしたが、復讐者としてそのような表情は見せず、決然たる意志を秘めているかのように振る舞った。
相変わらずルークでは、ふとした拍子に自らの発言を否定する人物が多かった。風土病なのかも知れない。ファルクシア島で屈強な戦士族〈オーク〉へ変貌を遂げたエルフの部族を始めとして、特定の地域に住まう人々が、同一の迷宮病に罹患することは少なからずある。そこいらにいる〈口ごもる牝鶏〉と合わせて、エルナはあまり気にしないことにした。
ファルケンアウゲに対して、エルナは「なぜ自分の父を謀殺したのか」などと問うことはなかった。そうした場合、気にしなければならないことが増え、次なる標的に接する際にそれらを加味することになるからだ。もちろん、単純に興味もなかった。
飲食店のメニューや迷宮公社の依頼書にもクエスチョンマークや、一度消して書き加えた跡、別の紙を切り貼りした部分などがあり、どうにも疑わしい――もちろん、ラップローヴの本とそこに書かれた過去も同じようなものだが――住民は混乱しないのだろうかと思うが、こうした風土病には何らかの手段で適合している場合が多い。迷宮が混沌を作る場合、秩序も同時に作るのだ。外部からは理解できないものを。
大通りのある一線から向こうが、まったく別の場所に接続されている。手前は煉瓦造りの赤い屋根の家が並んでいるが、線の向こうでは木造の小屋になっている。切り取ったページを繋げたように。エノーウェン自体が複数のバラバラになった異世界の断片が結びついているものだが、このルークはそれが顕著に表れている。住民が己の発言を疑問視するのも、彼らの脳裏に未だ残る、別世界の形と齟齬が生じているためかも知れない。エルナにしてみれば、なんとも親近感が湧くことだ。
ガヴィンやエルナは、ラップローヴがその使用者として作り上げた存在だ。それは、完全に無から生み出されたのだろうか。あるいは、どこかにいた誰かの要素を組み合わせた結果なのだろうか。本に記載された、卑怯だと言われることが絶対に我慢ならない人物や、怪しげな鳥を売る露天商、父の仇を討つために旅をする復讐者が、どこかにいたのだろうか。そうだとしても、その思いは既に消失し、残ったのは役割だけだ。エルナは境界線を越え、傾いた小屋の合間を進んでいく。




