第52話 颶風のアーマイゼ
何故挑発に乗ったのか不明だが、来るのが分かっているなら対処はできる。今回は竜をリウィア鐘楼にいた〈肉斬り巨人〉に変えた。竜が突っ込んで来た衝撃でエルナの四肢の骨が折れたが、それが治るまでにアーマイゼは解体された。
また逮捕されては叶わないので、近くの家から掃除用具を借りて、路面を洗い流した。あとで本を見た所、アーマイゼのページに【卑怯だと言われることが我慢できない】という記述が追加されていた。迷宮病の症状なのだろうか。それとも、彼女との戦いが膠着状態だったために、本が配慮してくれたということか。いや、この本が復讐の標的として九名を選んだ際に、エルフの隠密という情報に混じって、この性質が無作為に選ばれただけかも知れない。
いずれにしろ、アーマイゼが強力な手駒として加わったが、運用の際には気を付けなければならない。隠密たる者が、出て来いと言われて姿を現しては困る。
そういえば、この街についてあまり知らなかったので、近くの酒場に入って尋ねると、「ここは〈ルーク〉」という答え。だが店員はその後に「本当に?」と自問自答した。
その後も彼は、近隣の地理について教えてくれたが、そのたびに「そうだったか?」「違うかも知れないな」などと付け加える。どうも疑わしいので、別の相手に尋ねたかったが、客は誰もいない。エルナは赤ドロを一杯飲んで出た。
八百屋と魔法薬店の隙間に、派手な色彩の〈口ごもる牝鶏〉がいるのを見つけたので、ラップローヴで斬ってファルケンアウゲに変えた。強さで言えばアーマイゼの方が上だろうが、竜とセットで出てくる気がしたし、うっかり「我が父一人を集団で謀殺したくせに、卑怯と言われるのが嫌なのか」みたいなことを口走ってしまう恐れがあったからだ。
「アーマイゼを倒したようだな……まあ、お前が考えている通り、本の方でも我らにほどほどに戦い、復讐劇の登場人物としての役目を果たすことを望んでいるのだろう……もし、お前が奴にもっと苦戦するようであれば、様々な性質が付与され、見る間に弱体化させられたはずだ……竜に対するアレルギーとか、血を見ると卒倒するとか。そのようにおぜん立てされた復讐などもってのほか、と思うか?」
いや別にどうでもいい、と言おうとしたが、代わりにエルナは、例えどのような過程を経てでも父の仇を討つ、悪魔に魂を売り渡してでも、と思ってもいない台詞を声高に叫んだ。
「そうだろうな……次回以降も、どうしようもなくなったら突飛な行動に出てみるのもいいかも知れん。本のほうがそれに合わせて何かをしてくれるだろう。もちろん、お前が復讐者として最低限動く限りはな……」




