第51話 流血予告
エルナが次の都市に付くころには、考えてみれば探すべき相手の一人を確保できているので、定期的に辺りが血みどろになるのを除けば悪くない状況だと思うようになっていた。ポジティヴな考えは望ましいものだが、問題の根本的原因を取り除かずに思考を停止させることは、それに含まれるのだろうか――エルナはそうだと考えている。
街の中でもおかまいなしにアーマイゼは喉を斬った。竜が入れるはずのない場所である以上、彼女だけが隠密としての技能を用いて仕事をこなしているのだ。それにしても、復讐をされる側にとっての心理というのはいかなるものだろう。既に終わったはずの出来事を、わざわざ掘り返す迷惑な輩に目を付けられた、という具合だろうか。だとしても今のアーマイゼは、降りかかる火の粉を払うというより、新たな習慣を発見したという感じだ。
彼女の接近を察知することは、〈変容する獣〉の団員たちにとっても叶わなかった。〈竜影〉に与えられる魔法具と魔術がいかに優れていようと、帝国の名うての迷宮守りにとっても完全に捉えられないということがあるのだろうか――そうなのかも知れないし、アーマイゼだけが特別な力を持ち、絶対的な隠術をものにしているか、さもなくば彼女が、見えざる刺客として本に定義されているためかも知れなかった。
日が暮れてきたので宿に入ることにしたが、自分は暗殺者に狙われている不死で、定期的に流血するが平気か、と尋ねると、亭主は既に断ることを決めた顔で、どの程度の流血か、と聞いた。エルナは過少申告しようとしたが、その瞬間ざっくりと頸動脈を裂かれ、周囲が真っ赤に染まった。
追い出されたが、基本的にエルナは眠る必要がない。睡眠や食事なしでも――恐らくは呼吸をせずとも――体調を損なうことなく、ラップローヴを使用できる体力を保持し続ける。
広場にやって来たエルナは、ふと思いついて、久々に復讐者らしい調子の付け方をしてみようと考え、以下のように叫んだ。
〈颶風のアーマイゼ〉よ、我が父――本を参照する――ユルゲンの仇よ、こそこそと隠れず、姿を見せよ、正々堂々と果たし合おうではないか。などと、思ってもいない台詞を口にする。もちろん、こんなことを言ったからといって、アーマイゼがのこのこと姿を見せるはずもない。
と思っていたら、姿を消す魔術を解除し、竜に乗った黒装束のエルフが矢のごとき速度で急降下して来る。




