第49話 口ごもる牝鶏
何を売るのかと尋ねると、〈口ごもる牝鶏〉だ、と〈露天商〉は答えた。彼は小さな背負子を下ろすと、錆びた鳥籠を取り出した。中にいたのは牝鶏には見えなかった。冠羽から尾羽にかけ、赤から紫色のグラデーションを成している、派手な小鳥だ。そいつは鳴かなかったが、口ごもってもおらず、ただ沈黙を保っていた。
鳥籠を四つ並べたところで、一人の痩せたエルフが一直線に庭園を横切り〈露天商〉の所へ来た。彼は魔石を乗せた手のひらを差し出し、一羽くれ、と言った。鳥の派手さに負けないように、魔石は赤みがかったオレンジ色に輝いていた。
続いて、新聞売りの親爺さんがやって来て、鳥を買い求めた。店先に置けば良い客寄せになるとのことだ。彼は紙幣で支払った。
〈露天商〉は、この〈口ごもる牝鶏〉は自分が〈獣〉に加入する前、帝国南部の、沼地とジャングルが分厚い帯状に広がっている場所で仕入れたと言った。そこで彼は他の名前を持っていて、迷宮守りの徒党で斥候役をしていた。それはガヴィンがベイリンで参加したような、毎回メンバーの違う流動的な集団だった。
〈口ごもる牝鶏〉は木の上を飛んでいるのではなく泥沼を泳いでいて、捕獲するにはこの鳥たちと同じように泥まみれにならなければいけなかった。〈露天商〉は風生まれたちがしばしばするように、前の名を捨て、鳥を捕獲しては洗い、半ば腐れかけた公社支部の小屋の前で売り始めた。彼は〈玉虫色鳥〉と銘打って売り始めたが、客はなぜか全員、見事な〈口ごもる牝鶏〉だね、と言って買っていくので、そう呼ぶことにした。
風生まれという種族は、大多数は商売に向かず、〈露天商〉もいい加減などんぶり勘定で鳥を販売した。前の客の十倍、あるいは十分の一の値段で売ったり、魔石であれば一かけらのクズ石、あるいは握りこぶし大の二つと引き換えにした。あるとき、〈片道切符〉と呼ばれる巻物を代金として置いて行った迷宮守りがいた。それを使用すると特定の地点へ転移するもので、書かれた行き先と違う場所へ飛ばされることもしばしばあった。〈露天商〉は何も考えずに身を任せ、帝都正門へ転移するという但し書きと裏腹に、どこぞの地下迷宮内に移動し〈変容する獣〉に喰われた。
〈露天商〉が身の上話をする間も客は次々にやって来て、並べた〈口ごもる牝鶏〉はすべて売り切れた。最後の客は、先ほど見かけた緑色の粘液に塗れた鳥を置いて行った。エルナが、それも洗って売るのか、と尋ねると〈露天商〉は首を振って、こんな良く分からない鳥を飼う人はいないと思うので逃がす、と言い、そいつを置いて庭園を立ち去った。




