第44話 銃撃
エルナは、自分は〈ヴァ=マ〉を知っている、と答えた。その力を獲得することができたが、尋常なプロセスとは異なった。〈ヴァ=マ〉が彼女の持つ魔剣、ラップローヴを通して宿ったためだ。〈ヴァ=マ〉とは〈銀の黎明〉となる条件であったが、エルナはこの奇怪な徒党ごと本の中に転写した――否、引きずり込んだ。
現実世界から〈銀の黎明〉は消失した。合言葉ごと、本の中に招集された。ヴェールドを含む過去のメンバーたちが、既に死した〈七人衆〉を含めて、ずらりと〈銀の黎明、ヴァ=マ〉のページに羅列された。その文字は小さく蟻の群れのように蠢いて見え、エルナは読む気になれなかった。
結局〈ヴァ=マ〉とは何かは分からなかったが、ダグローラの神聖魔術のようにアンデッドを浄化したり、傷を回復したり、団員同士で連絡を取ったりする魔術が揃っているようだ。本来魔術を学ぶには、ナシラがガヴィンに指示したように反復的に動作や文字や記号を脳に刷り込ませる必要があるが、もちろん例外も多数あり、〈ヴァ=マ〉を知っているということになった者たちは、脳裏に勝手に魔術が流れ込む仕組みのようだ。なんとも気色悪いことだとエルナは思った。
ところでエルナは〈銀の黎明〉を復讐のための力として得ようとしたが、よく考えると、既に己が持っている力を最大限活用するべきだった。つまり、ラップローヴである。矛盾を力に変える必要がある。そんなことを今さら思いつく。
エルナは復讐者だ――復讐しようというつもりもなく、そう剣に定義されているから事務的にとりあえずやっているだけだ。復讐者なのに復讐をしない、という定義に矛盾した行為によって、ラップローヴはさらに力を高める。だから、もう少し消極的になるべきかも知れない。メイヴのように酔っぱらってばかりというのもいただけないが、いささか復讐というものから目を逸らすのだ。
そう思っていると、いきなり銃声が響き、エルナの心臓を撃ち抜いた。
エルナはラップローヴの使用者、並びに復讐者と定義されている。もし死んだならエルナはラップローヴを振るうことはできず、復讐を成すこともできない。よって、エルナは死なない――実に都合のよいことだ――傷はすぐに塞がったが、襲撃者をあぶりだすために死んだふりをした。
「ユルゲンの娘よ……復仇のためにおれたちを追って来たのが運のつきだったな。貴様がまだ生きていることは分かっている、だが、立ち上がる限り何度でも撃ち抜いてくれよう……この歩兵頭ファルケンアウゲがな」
狙撃者の声が聞こえた。それは奇妙に道じゅうに響き、どの地点から発せられたか分からなかった。
撃たれるというなら立ち上がるわけにはいかない。寝ころんだままエルナは、そういえば父の名を初めて知った、とその名を記憶しようとしたが、忘れそうだったので横たわったまま自分のページに【父の名はユルゲン】とメモした。




